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パワハラ事例解説(17) - システム開発における過重労働未然防止妨害

このシリーズの記事では、パワハラの定義と類型、私の身近に起きたグレーゾーンを含む事例について、定義と類型をもとに解説している。内容によっては考え方や改善策についても述べているので参考にしてほしい。

自分が加害者にならないように注意することをはじめ、被害に遭いそうな場合はいち早く予兆に気付くことが求められる。

目次


【最初に】パワハラの定義と6つの類型

パワハラはご存知の通り「パワーハラスメント」の略であり、権力や地位を利用した嫌がらせという意味である。2001年に株式会社クオレ・シー・キューブによる造語である。ただ、その定義は曖昧で指導との区別が困難である現実を抱えていた。2020年6月にパワハラ防止法が適用され(中小企業は2022年4月より適用)、同時に厚生労働省による定義が明確になった。

パワハラの定義とは、

職場において行われる

  • ①優越的な関係を背景とした言動であって、
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • ③労働者の就業環境が害されるものであり、

①から③までの3つの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

続いて、パワハラの6類型(パターン)を項目だけ紹介しておく。

  • (1)身体的な攻撃
  • (2)精神的な攻撃
  • (3)人間関係からの切り離し
  • (4)過大な要求
  • (5)過小な要求
  • (6)個の侵害

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

ニュースで取り上げられているものや、裁判になったものは組織内で解決できなかった手遅れ案件である。また、世間の目も段々厳しくなってきており、損害賠償の相場も数百万単位(被害者が死亡の場合は数千万単位)に上がってきているという情報もある。いくら正論であっても、相手が嫌がるやり方であれば、法律に触れることになる。

ただでさえニュースで見ることが多くなってきているのだが、これらは氷山の一角であり、水面下には程度の大小を問わずさらに多くの案件が潜んでいる。上述の定義や類型を基に、私が実際に見たことがある事例を紹介し、定義や類型を元に解説する。程度や被害の大小は様々である。

  • グレーゾーンであるもの、パワハラと断言できないもの
  • 「こんなのがパワハラになるのか?」というもの
  • 出来事が起きた当時はあまり意識しなかったものの今考えると「あのときのあの出来事はもしかするとパワハラにあたるのでは?自分も加害者にならないように気を付けよう。」と思ったもの

いずれにしても、加害者側に問題があり是正が必要であることは間違いなく言えるので、立場関係なく参考にしていただきたい。その上でパワハラの予兆を見極め、未然防止に繋げることが重要てある。

★関連リンク
o08usyu7231.hatenablog.com
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★事例一覧はこちら↓
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【事例17】システム開発における過重労働未然防止妨害

多重下請け構造の中間搾取企業と末端企業でのシステム開発における、長時間のブラック労働となったプロジェクトでの事例である。多重下請け構造の問題点については別記事を読んでいただきたい。

★関連記事
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ここでの登場人物は3名である。

A氏:パワハラ被害者、末端企業へ派遣されているソフトウェアエンジニア
   大手メーカーで実績を挙げている優秀な人材
B氏:パワハラ傍観者、末端企業のプロジェクトリーダー
C氏:パワハラ加害者、末端企業に丸投げで業務委託している中間搾取企業の窓口社員


毎日22時までの長時間労働である開発現場で、スケジュールに関するやりとりである。

C氏:「○○の件、いつまでにできますか?」
A氏:「○○の作業には、多大な工数がかかります。」
C氏:「なぜ、そんなにかかるのですか?」
A氏:「××の作業が必要で、内容をよく調査しないといけないためです。影響の調査も必要です。」
C氏:「××はウチのソフトウェアはちゃんと出来ていると聞いていますので、そんなにかからないはずです。~~あればできるはずです。」
A氏:「開発中はどのようなトラブルが起きるかわかりません。ちゃんと出来ていると聞いていても、実際ちゃんと出来ていないことは多々あります。」
C氏:「設計書があるので、読めばわかります。」
A氏:「設計書を読んだだけではよくわからないことが多いです。短期間で読むには量が膨大すぎます。このシステムを熟知しており、このプロジェクトに慣れた人が、より詳細を思い出すのには良いかも知れませんが、初めて読んだ人がわかる設計書になっていません。」
C氏:「他の製品でも実現しているので、そのソフトウェアを移植するだけです。持ってくるだけです。」
A氏:「本当に移植するだけで良いのか検証するのに時間がかかります。」
C氏:「で、なぜそんなにかかるのですか? 根拠を示してください。」
A氏:「C氏の案件はいつも予想外のことが発生しており、スケジュール感を信用できません。これまでの傾向を見れば明らかです。見ての通り毎日毎日この過重労働の状況であり、大変迷惑を受けております。この状況を理解できませんか? このような状況を避けるために十分に余裕を持ったスケジュールが必要です。スケジュールを調整していただけませんか? 無理なスケジュールを押し付けるのはご遠慮いただきたいです。」
C氏:「無理を言っているつもりはありません。で、いつまでにできますか?」
・・・エンドレス・・・

これを見てブラックだと見抜くことがでかるだろうか?

このやりとりを見ただけでは、パワハラであると思う人は少ないのではないだろうか?

暴言そのものは見受けられず、よくある業務上の依頼でしかないように見える。細部に気付く人なら、C氏がA氏に対して執拗に迫り、問い詰めている様子が伺える。

更に、決定的なのが、このやりとりと背景状況をセットで考えると、ブラック労働であることが確実にわかる。

  • 上記やりとりがあった月のA氏の残業時間は、ほぼ過労死レベルのものである。B氏はそれを上回る。
  • B氏はC氏の言いなり。
  • この直前には、C氏は計画時点で「なぜ2日もかかるのですか?」とA氏に問い詰めたタスクが、実際には2週間要している。
  • A氏のスキル不足ではないことが既にわかっている。A氏は優良企業やホワイト企業で実績を挙げている優秀な人材である。
  • 本プロジェクトは、A氏の作業のみが遅れているわけではなく、全体的に破綻している。作業が予定より遅れているのではなくて元々のスケジュールが短すぎる。
  • 本プロジェクトの背景状況として、A氏が言っていることが正しい。
  • C氏の案件は、過去にも炎上し過重労働となったとの情報がある。関係者からも呆れられている。

これは、長時間のブラック労働とセットで発生するパワハラの典型である。発注者としての立場を利用し(①)、プロジェクトを円滑に進めるためのコントロールではなく、短いスケジュールを約束させようと執拗に迫るという業務に必要相当な範囲を超えた言動により(②)、就労環境を悪化させている(③)ことから、パワハラの定義を満たしている。6類型では、発注者側から短いスケジュールで約束させるように執拗に迫る(2)「精神的な攻撃」、ただでさえ過重労働の状況で本来必要な工数を確保せず更に短いスケジュールでの完成を強要する(4)「過大な要求」が該当する。

C氏が改めなければならないのは以下の点だ。

  • 作業を依頼するときは相手目線で考える。「無理を言っているつもりはありません。」と言っているが、依頼者(加害者)側はそのつもりでも、この状況を許容できるか否かは、受け手(被害者)が決めることである。「無理がどの程度祟っているか」を知るのは受け手(被害者)である。

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  • 自分は加害者であることを自覚する。
  • C氏から見て他社の人間であるA氏の労務管理についてはB氏が責任を持つのが普通である。とはいえビジネス以前に人間である以上、状況を知ろうとする姿勢が必要。スケジュール面のみならず、労務面も意識する。
  • 短納期での完成を要求し、長時間労働に至ることは人権侵害を助長する行為であることを理解する。

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  • 立場や力関係で被害者を問い詰めるのではなく、どうすればプロジェクト全体が円滑に進むかを考える。下請けに丸投げではなく、会社が異なれど協力して進めなければならない場面である。サポートする姿勢が必要。
  • どうしてもスケジュール上急いでおり、A氏が示す見積りに納得いかないならば、自分で作業すれば済むことである。(しかし、実際には下請けに委託という表向きで作業しない。もしくは出来ない場合が多い。)
  • A氏に依頼している作業が簡単と考えているのならば、自分で作業すれば良いことである。(しかし、実際には下請けに委託という表向きで作業しない。もしくは出来ない場合が多い。)
  • A氏が気付いており、C氏自身が気付いていない問題点がある可能性を考慮し、A氏に寄り添って積極的にヒアリングを行う。
  • 過重労働の未然防止を妨害する行為をやめる。
  • 「設計書があるから」「ソフトウェアを移植するだけ」のように、簡単と思わせて短いスケジュールを約束させようとする、詐欺商法と同一の行為をやめる

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また、B氏においても傍観やC氏への同調は、リーダーとしてNGである。「無理な要求を受けない」というホワイト企業の姿勢を見習うべきである。同時に、C氏からの執拗な詰問によってA氏が迷惑を受けていることを認識し、改善措置を取るべきである。

最後に被害者A氏。過重労働の未然防止のため、毅然とした対応は良い。しかし、このような埒があかないケースでは、余裕のあるスケジュールの調整を要求するのではなく、断ることだ。断るには勇気が必要だ。被害に巻き込まれないためにも、ブラック労働やパワハラの予兆を早期に掴み、被害に遭っても決して泣き寝入りしないことだ。

ちなみに、この事例で扱った開発案件は、他にも下記記事の事例にも該当している。いずれも加害者はC氏である。
o08usyu7231.hatenablog.com
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【最後に】パワハラにおける考え方・まとめ

パワハラは加害者が未熟であることによって発生する。パワハラに関して被害者には非はない。被害者に改めるべき部分があると思えば、改めることは素晴らしいことである。しかし、パワハラを受けたことに対する責任まで取る必要はない

一方、パワハラ加害者は重い軽いいずれにしてもそれなりの処分と教育を受け、更正してほしい。パワハラの加害者を絶対に昇格させてはいけない。降格するくらいを当たり前にしてほしい。

パワハラ加害者となる可能性が高いリーダー、管理職には、パワハラの重大さを知ったうえで、チーム・組織で成果を最大化するために必要なことを学んでほしい。私は様々なリーダー、管理職を見てきた。技術や能力が高いベテラン社員はある程度いる。しかし、いくら能力が高くてもパワハラ気質なベテラン社員は、管理職にふさわしくないと判断している。組織のメンバーのパフォーマンスの最大化の妨げとなっているからである。チーム・組織で成果を最大化するためにパワハラはいらない。

そして被害者はパワハラを受けた状況にもかかわらず業務において一定のアウトプットを出しているなら、優秀な人材であると考えて良さそうだ。

パワハラがいけないことであるということは皆知っている。しかし、何がパワハラに当たるか、パワハラが発生したときにどのような影響が出るかを理解していないのではないだろうか。パワハラに関する研修や教育は行われているが、最悪命に関わるということを教えていないのではないだろうか。

本来被害者側に要求しなければならないことは社会的に非常に残念ではあり、理不尽ではあるが、パワハラ被害に遭う前から、転職、起業、フリーランス、副業など準備を進めておくことが、被害者個人でできる対策だろう。それくらい日本のハラスメント対策は国際的に見ても遅れている。