このシリーズの記事では、パワハラの定義と類型、私の身近に起きたグレーゾーンを含む事例について、定義と類型をもとに解説している。内容によっては考え方や改善策についても述べているので参考にしてほしい。
自分が加害者にならないように注意することをはじめ、被害に遭いそうな場合はいち早く予兆に気付くことが求められる。
【最初に】パワハラの定義と6つの類型
パワハラはご存知の通り「パワーハラスメント」の略であり、権力や地位を利用した嫌がらせという意味である。2001年に株式会社クオレ・シー・キューブによる造語である。ただ、その定義は曖昧で指導との区別が困難である現実を抱えていた。2020年6月にパワハラ防止法が適用され(中小企業は2022年4月より適用)、同時に厚生労働省による定義が明確になった。
パワハラの定義
- ①優越的な関係を背景とした言動であって、
- ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- ③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
www.no-harassment.mhlw.go.jp
パワハラの6類型
パワハラは次の6つのパターンに分類され、6類型と呼ばれている。
- (1)身体的な攻撃
- (2)精神的な攻撃
- (3)人間関係からの切り離し
- (4)過大な要求
- (5)過小な要求
- (6)個の侵害
「(1)身体的な攻撃」は暴力の他、モノを叩くことによる威嚇がこれに該当する。「(2)精神的な攻撃」は暴言の他にも、他人を心理的に苦しめる発言が該当し、パワハラ事例の中でも最も多い。特定の人だけ仲間外れにしたり、情報を与えない、無視をするのは「(3)人間関係からの切り離し」に該当する。到底達成できないノルマを与える「(4)過大な要求」、能力に見合わない仕事を与える、もしくは仕事を与えないことで心理的に苦しめる「(5)過小な要求」、プライベートに踏み込みすぎる「(6)個の侵害」、これらを総称してパワハラと呼ばれる。
www.no-harassment.mhlw.go.jp
このシリーズの記事で紹介するパワハラの事例
ニュースで取り上げられているものや、裁判になったものは組織内で解決できなかった手遅れ案件である。また、世間の目も段々厳しくなってきており、損害賠償の相場も数百万単位(被害者が死亡の場合は数千万単位)に上がってきているという情報もある。いくら正論であっても、相手が嫌がるやり方であれば、法律に触れることになる。
ただでさえニュースで見ることが多くなってきているのだが、これらは氷山の一角であり、水面下には程度の大小を問わずさらに多くの案件が潜んでいる。上述の定義や類型を基に、私が実際に見たことがある事例を紹介し、定義や類型を元に解説する。程度や被害の大小は様々である。
- グレーゾーンであるもの、パワハラと断言できないもの
- 「こんなのがパワハラになるのか?」というもの
- 出来事が起きた当時はあまり意識しなかったものの今考えると「あのときのあの出来事はもしかするとパワハラにあたるのでは?自分も加害者にならないように気を付けよう。」と思ったもの
いずれにしても、加害者側に問題があり是正が必要であることは間違いなく言えるので、立場関係なく参考にしていただきたい。その上でパワハラの予兆を見極め、未然防止に繋げることが重要てある。
このシリーズの記事で紹介するパワハラの事例一覧については、こちらを参考にしていただきたい。
o08usyu7231.hatenablog.com
【事例26】製品の品質問題対応の最中、他社管理職からの高圧的な言動が人的リソースを潰す
パワハラは社内で発生するだけでも大きな問題であるが、取引先の従業員に対して行われるパワハラは更に深刻だ。
o08usyu7231.hatenablog.com
まず、登場人物を整理する。
X社:システム開発企業。
Y社:X社の取引先で、商品開発・製造・生産を行う。
A氏:パワハラ被害者。X社のチームリーダー。
B氏:パワハラ加害者。Y社の管理職。
C氏:パワハラ発生時の、被害者A氏の上司。X社のマネージャ。
1.品質問題への対応状況、およびパワハラ発生に至るまでのいきさつ
システム開発を行っているX社のA氏はチームのリーダーを担当している。Y社はX社の取引先で、商品開発・製造・生産を行っており、管理職のB氏が組織を統括している。
X社A氏の部門で設計したソフトウェアが原因でシステムの品質問題が発生した。A氏は状況を社内の関係者に丁寧に説明し、チームのメンバの協力を得て、早急に原因究明を行った。また、A氏はY社B氏への説明も対応していた。
X社とY社はロケーションが離れていたためA氏とB氏のやりとりは電話、メールがメインであった。
A氏は懸命に対応を進めるも、B氏はA氏に対して高圧的な言動が目立っており、B氏自身もY社内各部門から追い詰められた状態である。
X社は製品の品質を最優先する方針を掲げている企業である。品質問題の対応に関して、X社はA氏が担当メンバと話し合った上で、品質を最優先した対応を行った。
B氏はA氏に製品の品質問題の原因(不良に至るメカニズム)の説明を求め、A氏がX社の見解を説明した。すると、B氏はA氏の説明をぶった切り、
- 「××違うやろ!〇〇やろ!」
- 「しっかりせえよ」
- 「おい!お前、ちゃんと理解しとんか!」
と全面否定し、A氏を罵倒した。
電話でのやりとりでもあり、A氏は大声を出すわけにもいかず、B氏の言動を指摘したい気持ちを抑えながら、懸命に対応した。
2.パワハラ発生による人的リソースへの悪影響
B氏はA氏に対して、A氏の上司でありマネージャであるC氏に電話を代わるように要求した。この品質問題の原因を一番よく知るのはA氏自身であるのに、C氏に代わって大丈夫かと心配しながらも、やむなくA氏はC氏に電話を代わった。その後はそのまま進行した。
A氏はC氏の電話対応を近くで見ていると、A氏からB氏に説明した内容と、C氏からB氏に説明した内容と大きく差がなかったと感じた。従って、A氏は、B氏は説明の中身でなく相手によって態度を変えていること、B氏における話を聞くときのマナーについて、不信感を抱いた。
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A氏はB氏から受けた理不尽な言動を受けたことにより、以降の業務のパフォーマンスに影響した。それでもA氏は品質問題対応に懸命に取り組んだ。B氏からパワハラを受けたことにより、A氏の体調面に影響し、翌日にA氏は発熱に至った。早急に異変に気付いたA氏は、品質問題対応という大変な状況にも関わらず1日休養した。そして、1日休養しただけで済み、翌々日には再び出社した。
後に判明したことは、B氏はY社内の生産工程の都合を重視した対応をしたい意向があり、その対応方法から逆算した品質問題のメカニズムの説明を求めていたということだ。
3.パワハラの定義に基づいた検証
もし前述の意向があったならば、B氏はA氏を否定することなく、パワハラ以外の方法でA氏に寄り添う姿勢が必要だ。B氏はソフトウェア発注側組織の管理職という立場上の力関係を背景に(①)、品質問題のメカニズムの説明を受ける側の態度の面において業務に必要相当な範囲を超えた言動(②)が散見され、A氏を体調不良に追い込むことでX社のリソースを潰すという就業環境を悪化(③)を招いた。よってパワハラの定義を満たしている。パワハラ6類型では、(2)精神的な攻撃に分類される。
尚、品質問題対応におけるB氏とのやりとりを、A氏からC氏に代わってからは、そのまま進んだ。B氏とC氏は年代が近く、B氏はC氏に対してパワハラを行うことはなかった。A氏のみがパワハラの標的となった。A氏に対しては、圧力をかければB氏の思惑どおりに動くだろうと甘くみていた結果である可能性が高い。
4.品質問題の対応の最中にもかかわらず・・・
本事例は、品質問題対応という重要で緊急の場面で、加害者B氏のパワハラにより、X社の人的リソースであるA氏を潰したことで、X社の人的リソースおよびA氏のパフォーマンスに悪影響を与え、労働問題にまで発展させた最悪の部類だ。品質問題を発生させてしまったのはX社の問題であるが、このような緊急対応の場面では、X社とY社の協力関係や連携が求められる。A氏の品質問題の懸命の対応にも関わらず、B氏はパワハラによる加害という品質問題以下のことをやってしまったのである。
加害者であるB氏から見れば、品質問題の原因(不良に至るメカニズム)の説明が期待していたのと違っていたのかもしれない。「説明が悪い!」と被害者のせいにできてしまいそうだ。しかし、これはパワハラをして良い理由にはならない。当たり前だ。
また、品質問題の原因(不良に至るメカニズム)を最もよく知るのはA氏である。B氏はA氏からの説明を理解しなければならない立場である。A氏の説明をぶった切り、
- 「××違うやろ!〇〇やろ!」
- 「しっかりせえよ」
- 「おい!お前、ちゃんと理解しとんか!」
とA氏を否定し罵倒するというB氏の行為は、お門違いなのである。
被害者であるA氏にしてみれば、『品質問題の原因(不良に至るメカニズム)を問われたことに対して、品質問題の原因(不良に至るメカニズム)を説明したら、パワハラを受けた』、このように目に映るのである。加害者B氏に都合が良いかどうかは関係なく、A氏は事実を説明して、回避することのできないパワハラ被害を受けたのだ。加害者B氏がこのことを理解できていないと、絶対にパワハラはなくならないと断言できる。相手の立場に立って考えるとはこういうことだ。
普通パワハラを受けた被害者は、精神を崩壊し、翌日から出社しなくなるということは、残念ながらよくある話である。数日、数週間、数ヶ月などざらである。最悪、命に関わることさえある。しかし、A氏は体調の異変に早い段階から気付き、1日休暇しただけだったのだ。この異変に対する判断の早さと、パワハラを受けた状態にも関わらず、チームのメンバーをまとめながら品質対応に尽力し、緊急対応をひととおりこなしたということは、それだけA氏が優秀である証拠なのだ。
パワハラの専門家によると、パワハラを受けると一般にはパフォーマンスが下がり、それでも一定の成果を挙げる被害者は優秀な人材であるそうだ。全くそのとおりだ。
優秀な人材でもパワハラ被害は避けることはできない。なぜならパワハラは加害者がやることだからだ。
品質問題の対応にも、人材育成にも、パワハラはいらないし、百害あって一理なしである。
【最後に】パワハラにおける考え方・まとめ
パワハラは加害者および組織の問題、被害者に責任はない
パワハラは加害者が未熟であることによって発生する。パワハラに関して被害者には非はない。被害者に改めるべき部分があると思えば、改めることは素晴らしいことである。しかし、パワハラを受けたことに対する責任まで取る必要はない。
一方、パワハラ加害者は重い軽いいずれにしてもそれなりの処分と教育を受け、更正してほしい。パワハラの加害者を絶対に昇格させてはいけない。降格するくらいを当たり前にしてほしい。
パワハラ加害者となる可能性が高いリーダー、管理職には、パワハラの重大さを知ったうえで、チーム・組織で成果を最大化するために必要なことを学んでほしい。私は様々なリーダー、管理職を見てきた。技術や能力が高いベテラン社員はある程度いる。しかし、いくら能力が高くてもパワハラ気質なベテラン社員は、管理職にふさわしくないと判断している。組織のメンバーのパフォーマンスの最大化の妨げとなっているからである。チーム・組織で成果を最大化するためにパワハラはいらない。一方、被害者はパワハラを受けた状況にもかかわらず業務において一定のアウトプットを出しているなら、優秀な人材であると考えて良さそうだ。
パワハラがいけないことであるということは皆知っている。しかし、何がパワハラに当たるか、パワハラが発生したときにどのような影響が出るかを理解していないのではないだろうか。パワハラに関する研修や教育は行われているが、最悪命に関わるということを教えていないのではないだろうか。
パワハラ対策の第一歩は証拠集め
パワハラは加害者および組織の問題としながらも、被害者が対策しなければならない。実に理不尽だ。放置や無策、我慢することはお勧めできない。エスカレートするからだ。その対策の第一歩としては証拠を集めることだ。電子メールやチャットのやりとりでパワハラに繋がりそうなものがあれば残しておく、会話についてはスマホでも良いがICレコーダーで録音しておくことをお勧めする。裁判等で確実な証拠となる。
自分を守るための準備も並行して進める必要がある
パワハラは加害者を直接コントロールすることは難しい。被害者の方々には、まず自分を守ることを優先していただきたい。できればパワハラが発生するような環境から離れ、他の環境に移ることができるようにしておくことが望ましい。本来、被害者側に要求しなければならないことは社会的に非常に残念ではあり、理不尽ではあるが、パワハラ被害に遭う前から、転職、起業、フリーランス、副業など準備を進めておくことが、被害者個人でできる対策である。あらゆる手段で自分の人生を守るよう、準備を進めておくことをお勧めする。それくらい日本のハラスメント対策は国際的に見ても遅れている。
o08usyu7231.hatenablog.com
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そして準備が整った後、いざパワハラ被害を理由に退職する際に、損害賠償など、企業の不祥事によって受けた不利益を取り返すアクションを起こしたいと考えている方は、弁護士が運営する退職代行を、なるべく安い費用で退職代行の活用を考えておられる方は労働組合が運営する退職代行の活用を視野に入れていただきたい。
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