ソフトウェアエンジニアが労働について情報発信するブログ

ブラック労働からホワイト労働まで経験したソフトウェアエンジニアが世の中にとって役立つことを情報発信していく。

パワハラ事例解説(28) - パワハラ加害者に寄り添った間違いだらけのパワハラ対応

このシリーズの記事では、パワハラの定義と類型、私の身近に起きたグレーゾーンを含む事例について、定義と類型をもとに解説している。内容によっては考え方や改善策についても述べているので参考にしてほしい。

自分が加害者にならないように注意することをはじめ、被害に遭いそうな場合はいち早く予兆に気付くことが求められる。

目次


【最初に】パワハラの定義と6つの類型

パワハラはご存知の通り「パワーハラスメント」の略であり、権力や地位を利用した嫌がらせという意味である。2001年に株式会社クオレ・シー・キューブによる造語である。ただ、その定義は曖昧で指導との区別が困難である現実を抱えていた。2020年6月にパワハラ防止法が適用され(中小企業は2022年4月より適用)、同時に厚生労働省による定義が明確になった。

パワハラの定義とは、

職場において行われる

  • ①優越的な関係を背景とした言動であって、
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • ③労働者の就業環境が害されるものであり、

①から③までの3つの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

続いて、パワハラの6類型(パターン)を項目だけ紹介しておく。

  • (1)身体的な攻撃
  • (2)精神的な攻撃
  • (3)人間関係からの切り離し
  • (4)過大な要求
  • (5)過小な要求
  • (6)個の侵害

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

ニュースで取り上げられているものや、裁判になったものは組織内で解決できなかった手遅れ案件である。また、世間の目も段々厳しくなってきており、損害賠償の相場も数百万単位(被害者が死亡の場合は数千万単位)に上がってきているという情報もある。いくら正論であっても、相手が嫌がるやり方であれば、法律に触れることになる。

ただでさえニュースで見ることが多くなってきているのだが、これらは氷山の一角であり、水面下には程度の大小を問わずさらに多くの案件が潜んでいる。上述の定義や類型を基に、私が実際に見たことがある事例を紹介し、定義や類型を元に解説する。程度や被害の大小は様々である。

  • グレーゾーンであるもの、パワハラと断言できないもの
  • 「こんなのがパワハラになるのか?」というもの
  • 出来事が起きた当時はあまり意識しなかったものの今考えると「あのときのあの出来事はもしかするとパワハラにあたるのでは?自分も加害者にならないように気を付けよう。」と思ったもの

いずれにしても、加害者側に問題があり是正が必要であることは間違いなく言えるので、立場関係なく参考にしていただきたい。その上でパワハラの予兆を見極め、未然防止に繋げることが重要てある。

★関連リンク
o08usyu7231.hatenablog.com
o08usyu7231.hatenablog.com
★事例一覧はこちら↓
o08usyu7231.hatenablog.com

【事例28】パワハラ加害者に寄り添った間違いだらけのパワハラ対応

パワハラは社内で発生するだけでも大きな問題であるが、取引先の従業員に対して行われるパワハラは更に深刻だ。
o08usyu7231.hatenablog.com

まず、登場人物を整理する。

X社:システム開発企業。
Y社:X社の取引先で、商品開発・製造・生産を行う。
A氏:パワハラ被害者。X社のチームリーダー。
B氏:パワハラ加害者。Y社の管理職。
C氏:パワハラ発生時の、被害者A氏の上司。X社のマネージャ。

システム開発を行っているX社のA氏はチームのリーダーを担当している。Y社はX社の取引先で、商品開発・製造・生産を行っており、管理職のB氏が組織を統括している。

X社A氏の部門で設計したソフトウェアが原因でシステムの品質問題が発生した。品質問題対応の中で、B氏は終始A氏に対して高圧的であった。B氏はA氏へ品質問題に至るメカニズムの説明を求め、これに対してA氏が誠意をもって丁寧に説明したところ、B氏はA氏の話の腰を折り罵倒した。A氏はB氏のパワハラを原因として、体調を壊してしまった。早急な対応で大事には至らず、1日休養したのみで済んだ。

以降、B氏の対応はA氏の上司であるマネージャC氏が行った。

X社とY社はロケーションが離れていたためA氏とB氏、C氏とB氏のやりとりは、電話、メールがメインであった。ここまでの詳細は過去の記事を参照いただきたい。

o08usyu7231.hatenablog.com

更に、パワハラ被害者A氏は、後日勇気を出して加害者B氏に対して、パワハラを受け体調に影響した旨のクレームとB氏の行動に対する是正要求を行った。しばらくトラブルになったものの、被害者A氏が労働問題の観点から正論を主張し続け、最終的に加害者B氏は被害者A氏に謝罪している。A氏の行動は、社会的優良事例である。この部分についても詳細は過去の記事を参照いただきたい。

o08usyu7231.hatenablog.com

A氏は上司であるマネージャC氏に対して、この一連の話を共有している。この記事で述べるのはC氏の対応についてだ。

1.パワハラ被害者における主張の内容をおさらい

まず、パワハラ被害者A氏から加害者B氏へ、最初にメール送信した内容がこちらである。

【被害者A氏から加害者B氏への送信内容概要】

  • 「私(A氏)に対して高圧的であった。C氏への対応とは全く異なる。なぜここまで差が出るのか?」
  • 「『品質問題』についてメカニズムを説明するも、話を途中でぶった切るなど、聞き手としてのマナーに問題がみられる」
  • 「説明内容が理解されないのみならず、罵倒され、大変心が痛む。」
  • 「体調の異変に気付き、あの翌日発熱し、1日休暇した。一歩間違えれば大きな『労働問題』。」
  • 「今後、このようなことが二度と無いよう是正していただきたい。」

この内容は後程、被害者A氏から上司であるC氏へ転送したのだが、その前に加害者B氏からC氏へも転送されている。

その後、C氏はこのメールの内容に対する見解をA氏に返信し、A氏とC氏はその内容を基に話し合った。

2.パワハラ一連について被害者に対する上司の対応

A氏からB氏へパワハラ被害に対するクレームのメールをC氏が確認し、A氏へ向けた見解の概要は以下であった。

【被害者の上司C氏から被害者A氏へ向けたC氏の見解】

  • 「両者の意志疎通に不備がある。」
  • 「品質問題の対応にあたり、Y社が知りたいことを理解していたか?」
  • 「A氏とB氏における視座の違いだ!」
  • 「品質問題に対する社外への対応だが、例えば相手が『○○(Y社からの更に先の製品提供先)』『今回品質問題が発生した製品を使っていただくエンドユーザー』に対しても同じ対応をするのか?」
  • 「(健康被害を受けた件を他社に)『言う』という行為が残念である。」
  • 「A氏の体調不良はY社には関係なくX社内の問題」
  • 「会社対会社の関係をどう考えている?」
  • 「不満があればまずは私に言うべき」

これに対して、A氏はC氏との話し合いの中で、口頭で回答した概要は以下であった。

【上司C氏の見解に対する被害者A氏の回答】

  • 「いくら顧客・取引先であっても、パワハラ含め理不尽な対応をされたときの話は全く別物である」
  • 「人間である以上、被害を受けた旨の意思表示はすべきであり、『会社対会社』以前に『人間対人間』レベルの話である」
  • 「『顧客の方が偉い』、『発注元の方が立場が上』という考え方は誤り」
  • 「B氏は私に対してパワハラのリスクとなる行為に及んだが、私は今回の品質対応を含めてメンバーに丁寧に接しているし、圧力をかけずともメンバーはよく動いてくれている。私とB氏の違いがここにある」
  • パワハラ加害者へのプライバシーに配慮し、最小人数での解決を試みた」

また、これ以外にもA氏はB氏から受けたパワハラについて、パワハラの定義や事例を調べパワハラの可能性があるとしながらも、最小人数での解決を試みる意向から、パワハラ相談窓口には報告しない意向を示した。

3.パワハラ一連について加害者に対する上司の対応とその後

A氏とC氏が話し合った後、その結果を踏まえて、C氏からB氏へメールで下記のように連絡した。

【被害者の上司C氏から加害者B氏への送信内容概要】

  • 「今回のA氏とB氏のメールでのやり取りについて、私の見解を元に、A氏と話をしました。全面的に、私の見解に納得してもらい、A氏も反省しています」
  • 「今回、品質問題発生により逼迫し、意思の疎通に不備が生じたと考えます」
  • 「結局、品質問題の発生が根元であるという認識は皆一致する点ですので、今回のA氏とB氏のやりとりの件はこれで終了して、以降の円滑な開発を目指し協力をお願いします」

これに対して、B氏からC氏には、次のように連絡があった。

【加害者B氏から被害者の上司C氏への送信内容】

  • 「いろいろとお手数をおかけし申し訳ございませんでした。」

先の記事にもあるとおり、B氏はA氏に対して謝罪があった。A氏とB氏とは、これ以降トラブルになることはなかった。

A氏はB氏とのやりとりに疲弊し、しばらくの間元気をなくしていた。第3者としてC氏が入ったことによって一時は安心感を覚えたものの、正気を取り戻す度にC氏の対応に疑問を感じていた。B氏からのパワハラに声を挙げたことに対しても丸め込まれた感覚を受けており、A氏とC氏との打ち合わせでは、C氏からA氏へ、品質問題の対応や対外的な対応に関して指導する内容が中心であった。

この時点で本出来事を知るのはA氏、B氏、C氏の3名のみである。A氏はB氏からのパワハラについて、話を大きくすることなく最小人数で解決したい意向であった。そのため、この時点ではパワハラ相談窓口に報告する等のアクションを起こしていない。

4.パワハラ一連について上司の対応・マインドに関する問題点ついて解説する

ここで着目するのはC氏の言動だ。被害者A氏に対して、加害者B氏に対して、それぞれにおける問題点について解説する。

  • 「両者の意志疎通に不備がある。」
  • 「品質問題の対応にあたり、Y社が知りたいことを理解していたか?」
  • 「A氏とB氏における視座の違いだ!」

まず、パワハラか否か明確でない状況であっても、A氏からB氏に向けたクレームの内容は、B氏の言動によりA氏が被害を受け、健康面に影響したことである。C氏はここを無視し、矛先がA氏に向けられている点から、アプローチの入り口が既に間違っていることが容易にわかる。パワハラ発生の揉み消しを意図していると疑われても無理はない。

C氏からA氏に向けて発したメッセージは、A氏がパワハラを受けていないことを前提とした一般論に終始している。A氏自らがパワハラ解決に向けて動き出した社会的優良事例にも関わらず、このような対応をされたのでは、A氏の気持ちは絶望的なものだろう。

ハラスメント被害者からの訴えや相談に対して、更に不利益を与える行為を「セカンドハラスメント」という。被害者にとっては、勇気ある行動の結果の二次被害だ。
o08usyu7231.hatenablog.com

  • 「品質問題に対する社外への対応だが、例えば相手が『○○(Y社からの更に先の製品提供先)』『今回品質問題が発生した製品を使っていただくエンドユーザー』に対しても同じ対応をするのか?」

今回のY社B氏以外に、『○○(Y社からの更に先の製品提供先)』『今回品質問題が発生した製品を使っていただくエンドユーザー』といった相手を出すことで、立場や力関係を利用して、恐怖でもって被害者を黙らせるための誘導と捉えられる。上述のとおり、パワハラ被害者に対するセカンドハラスメントであり、これ単独でもパワハラとなる。

  • 「(健康被害を受けた件を他社に)『言う』という行為が残念である。」

更に「『言う』という行動が残念である」と明示していることから、やはり被害者を黙らせることが目的と解釈される。本来、パワハラ被害者を守り、パワハラ発生に対する対策を取り、労働者の安全を確保し、快適に働ける環境を作ることが管理者の仕事である。都合が悪いことを理由に被害者を黙らせるのはコンプライアンス上問題であり、安全配慮義務(労働契約法第5条)違反にあたる。

  • 「A氏の体調不良はY社には関係なくX社内の問題」

A氏の体調不良に関しては、B氏のパワハラ関係なく発生したものであれば、「A氏が稼働できないことで(Y社のような)他社へ迷惑をかけている」と言え、X社内の問題であると言える。しかし、本ケースはパワハラの加害者はY社に属するB氏である。被害者側組織が「パワハラを受け、体調を崩し、申し訳ございませんでした」などとなるだろうか? 常識で考えてもらいたい。明らかに、X社内の問題ではなくY社の問題である。A氏のように体調を崩し、不利益を被った人を更に叩くなど、お門違いも甚だしい。

  • 「会社対会社の関係をどう考えている?」

これもパワハラ被害者を黙らせるための一言である。
「会社対会社の関係」とは、悪事で迷惑をかけたことによる影響が、チーム内、部門内といった社内で留まる場合よりも大きいといった意味で、本来パワハラ加害者に対して言う言葉である。しかし、このケースでは、他社から理不尽な言動等を受けても、波風立てないよう黙らせる意味で、パワハラ被害者に向けて使われている。安全配慮義務違反(労働契約法第5条)違反および、パワハラ防止法違反にあたる。こちらの記事で解説している内容についても参考にしてもらいたい。
o08usyu7231.hatenablog.com

  • 「不満があればまずは私に言うべき」

このケースのように「パワハラを受けた場合は、まず上司に相談する」というのが王道だと言われている。上司側の立場からもまず自分に知らせてほしいはずである。しかし、もう一段深く考えなければならない。「上司」は「上司」であって、「パワハラ専門家」ではない。パワハラ対応がまともにできないどころか、「教育」と称して被害者に対して責任追及をし、更に苦しめる上司もいるから残念だ。あるパワハラ専門家は、「被害者に対して『あなたにも問題がある』という人は、相談を受ける能力を有していないということである」とコメントしている。全くその通りだ。

この事例では、A氏がB氏からパワハラを受けたことを、B氏へクレームする前に、C氏へ報告したならば、最悪の場合C氏はB氏へクレームの内容を伝えることなく、A氏をマインドコントロールしていた可能性があるのだ。

ここで被害者側にとって重要なのは、パワハラを相談する相手を見極めることはもちろん、不適切な対応をされたときの次の手を考えておくことだ。理不尽な話であることは重々承知の上だが、正しいパワハラ対応ができる人材が少ないのが現実だ。

  • 「今回のA氏とB氏のメールでのやり取りについて、私の見解を元に、A氏と話をしました。全面的に、私の見解に納得してもらい、A氏も反省しています」
  • 「今回、品質問題発生により逼迫し、意思の疎通に不備が生じたと考えます」

これはC氏が加害者B氏へ向けた内容である。A氏はC氏の見解に納得していないし、反省するはずがない。C氏がB氏にただ忖度しているだけなのである。品質問題の発生についてはX社の問題なので、そのことを含めれば、C氏からB氏への気遣いがあるのだろうと考えられる。ただ、「意思の疎通に不備が生じた」ことはパワハラをして良い理由にはならない。

  • 「結局、品質問題の発生が根元であるという認識は皆一致する点ですので、今回のA氏とB氏のやりとりの件はこれで終了して、以降の円滑な開発を目指し協力をお願いします」

「品質問題」を根絶することはそのとおりである。確かに、「品質問題」が発生しなければ、B氏からA氏へのパワハラは発生しなかったと思われる。しかし、このコメントには致命的な過ちがある。

「A氏とB氏のやりとりの件はこれで終了して、・・・」の部分だ。「品質問題」さえ発生しなければ、パワハラ対策やコンプライアンスの啓蒙を行わなくても良いのかという話である。加害者側組織、被害者側組織ともにパワハラ対策に向けた取り組みが必要であるが、実際にパワハラが発生しているにもかかわらず、管理者としてコンプライアンス意識が、とてつもなく低い状態にある。

管理職は自部門の業績を最優先し、コンプライアンスが二の次になる傾向がある。しかし、これでは更に大きなマイナスとなるリスクを抱えており、将来取り返しのつかない事態になることを忘れてはならない。組織はパワハラに対して対策を取る義務がある。

【最後に】パワハラにおける考え方・まとめ

パワハラは加害者が未熟であることによって発生する。パワハラに関して被害者には非はない。被害者に改めるべき部分があると思えば、改めることは素晴らしいことである。しかし、パワハラを受けたことに対する責任まで取る必要はない

一方、パワハラ加害者は重い軽いいずれにしてもそれなりの処分と教育を受け、更正してほしい。パワハラの加害者を絶対に昇格させてはいけない。降格するくらいを当たり前にしてほしい。

パワハラ加害者となる可能性が高いリーダー、管理職には、パワハラの重大さを知ったうえで、チーム・組織で成果を最大化するために必要なことを学んでほしい。私は様々なリーダー、管理職を見てきた。技術や能力が高いベテラン社員はある程度いる。しかし、いくら能力が高くてもパワハラ気質なベテラン社員は、管理職にふさわしくないと判断している。組織のメンバーのパフォーマンスの最大化の妨げとなっているからである。チーム・組織で成果を最大化するためにパワハラはいらない。

そして被害者はパワハラを受けた状況にもかかわらず業務において一定のアウトプットを出しているなら、優秀な人材であると考えて良さそうだ。

パワハラがいけないことであるということは皆知っている。しかし、何がパワハラに当たるか、パワハラが発生したときにどのような影響が出るかを理解していないのではないだろうか。パワハラに関する研修や教育は行われているが、最悪命に関わるということを教えていないのではないだろうか。

本来被害者側に要求しなければならないことは社会的に非常に残念ではあり、理不尽ではあるが、パワハラ被害に遭う前から、転職、起業、フリーランス、副業など準備を進めておくことが、被害者個人でできる対策だろう。それくらい日本のハラスメント対策は国際的に見ても遅れている。