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パワハラ事例解説(29) - パワハラ被害者に対して人事評価で不利益扱いする違法行為

このシリーズの記事では、パワハラの定義と類型、私の身近に起きたグレーゾーンを含む事例について、定義と類型をもとに解説している。内容によっては考え方や改善策についても述べているので参考にしてほしい。

自分が加害者にならないように注意することをはじめ、被害に遭いそうな場合はいち早く予兆に気付くことが求められる。

目次


【最初に】パワハラの定義と6つの類型

パワハラはご存知の通り「パワーハラスメント」の略であり、権力や地位を利用した嫌がらせという意味である。2001年に株式会社クオレ・シー・キューブによる造語である。ただ、その定義は曖昧で指導との区別が困難である現実を抱えていた。2020年6月にパワハラ防止法が適用され(中小企業は2022年4月より適用)、同時に厚生労働省による定義が明確になった。

パワハラの定義

パワハラパワーハラスメント)とは、職場において行われる

  • ①優越的な関係を背景とした言動であって、
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • ③労働者の就業環境が害されるものであり、

①から③までの3つの要素を全て満たすものをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

パワハラの6類型

パワハラは6類型といって、6つのパターンに分類されている。項目だけ紹介しておく。

  • (1)身体的な攻撃
  • (2)精神的な攻撃
  • (3)人間関係からの切り離し
  • (4)過大な要求
  • (5)過小な要求
  • (6)個の侵害

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

このシリーズの記事で紹介するパワハラの事例

ニュースで取り上げられているものや、裁判になったものは組織内で解決できなかった手遅れ案件である。また、世間の目も段々厳しくなってきており、損害賠償の相場も数百万単位(被害者が死亡の場合は数千万単位)に上がってきているという情報もある。いくら正論であっても、相手が嫌がるやり方であれば、法律に触れることになる。

ただでさえニュースで見ることが多くなってきているのだが、これらは氷山の一角であり、水面下には程度の大小を問わずさらに多くの案件が潜んでいる。上述の定義や類型を基に、私が実際に見たことがある事例を紹介し、定義や類型を元に解説する。程度や被害の大小は様々である。

  • グレーゾーンであるもの、パワハラと断言できないもの
  • 「こんなのがパワハラになるのか?」というもの
  • 出来事が起きた当時はあまり意識しなかったものの今考えると「あのときのあの出来事はもしかするとパワハラにあたるのでは?自分も加害者にならないように気を付けよう。」と思ったもの

いずれにしても、加害者側に問題があり是正が必要であることは間違いなく言えるので、立場関係なく参考にしていただきたい。その上でパワハラの予兆を見極め、未然防止に繋げることが重要てある。

このシリーズの記事で紹介するパワハラの事例一覧については、こちらを参考にしていただきたい。
o08usyu7231.hatenablog.com

【事例29】パワハラ被害者に対して人事評価で不利益扱いする違法行為

パワハラは社内で発生するだけでも大きな問題であるが、取引先の従業員に対して行われるパワハラは更に深刻だ。
o08usyu7231.hatenablog.com

まず、登場人物を整理する。

X社:システム開発企業。
Y社:X社の取引先で、商品開発・製造・生産を行う。
A氏:パワハラ被害者。X社のチームリーダー。
B氏:パワハラ加害者。Y社の管理職。
C氏:パワハラ発生時の、被害者A氏の上司。X社のマネージャ。

システム開発を行っているX社のA氏はチームのリーダーを担当している。Y社はX社の取引先で、商品開発・製造・生産を行っており、管理職のB氏が組織を統括している。

X社A氏の部門で設計したソフトウェアが原因でシステムの品質問題が発生した。品質問題対応の中で、B氏は終始A氏に対して高圧的であった。B氏はA氏へ品質問題に至るメカニズムの説明を求め、これに対してA氏が誠意をもって丁寧に説明したところ、B氏はA氏の話の腰を折り罵倒した。A氏はB氏のパワハラを原因として、体調を壊してしまった。早急な対応で大事には至らず、1日休養したのみで済んだ。

以降、B氏の対応はA氏の上司であるマネージャC氏が行った。

X社とY社はロケーションが離れていたためA氏とB氏、C氏とB氏のやりとりは、電話、メールがメインであった。ここまでの詳細は過去の記事を参照いただきたい。

o08usyu7231.hatenablog.com

更に、パワハラ被害者A氏は、後日勇気を出して加害者B氏に対して、パワハラを受け体調に影響した旨のクレームとB氏の行動に対する是正要求を行った。しばらくトラブルになったものの、被害者A氏が労働問題の観点から正論を主張し続け、最終的に加害者B氏は被害者A氏に謝罪している。A氏の行動は、社会的優良事例である。この部分についても詳細は過去の記事を参照いただきたい。

o08usyu7231.hatenablog.com

A氏は上司であるマネージャC氏に対して、この一連の話を共有している。このときのC氏の対応についての記事はこちらである。C氏からA氏へ、対Y社B氏への「品質問題対応」や「顧客対応」の一般的な内容に関して指導するものばかりであり、A氏が受けたパワハラから話を反らし、被害者に寄り添っていないと思える内容だ。

o08usyu7231.hatenablog.com

この記事で解説するのは、この出来事が発生した時期に対する、C氏が行ったA氏に対する人事評価である。Y社B氏に対して、A氏がパワハラ被害を訴えたことによる不利益と感じる内容だ。

1.人事評価による不利益な扱いが発覚する

C氏は、A氏がパワハラを受け、声を挙げた時期に対するA氏への人事評価の一部を低評価とした。具体的には、「人間関係」に関する項目の評価を低くし、理由(根拠)として、

「他社(Y社)に対して、自己中心的な発言あり」

と入力していることが発覚した。

このことを知ったA氏は、疑問に感じた。本来、低評価の項目は今後の成長に繋げるべきポイントである。「自己中心的な発言」という、具体性がなく、心当たりのない根拠に対して、具体的にどの出来事のことを指しているのかを、A氏自身で出来事ベースで分析し、振り返った。

結果、この出来事以外に人間関係におけるトラブル等問題はなかった。更に、この評価の対象期間以外の時期にもトラブル等は発生していない。それどころか、A氏はY社から丁寧な仕事ぶりを評価されており、周囲のメンバとも良好な人間関係を構築できている。

更に、「評価根拠の文面」と、「A氏が証拠として保有していた、パワハラ被害を受けた当時のC氏の見解を記載したメール文面」(詳細は過去記事参照)の内容が一致していることから、低評価の元となった出来事はY社B氏から受けたパワハラに声を挙げた結果であると特定した。根拠の文面からは、A氏の発言にあたかも問題があるかのような印象操作であるのだが、実態は全く違う。

A氏は、C氏が実施した不正な人事評価について、X社内のコンプライアンス相談窓口に連絡し相談した。同時にA氏が保有しているこれまでのハラスメントの証拠を、コンプライアンス相談窓口に開示した。

2.人事評価による不利益な扱いは回復されなかった

A氏はパワハラ相談窓口の担当者と面談した。面談の対象となる出来事は大きく2点あり、1つは「Y社B氏から受けたパワハラ」、もう1つは「A氏の上司であるC氏からの不正な人事評価」についてである。

後者を説明するための背景として、前者の説明が必要だ。前者はY社B氏から既に謝罪を受けており、コンプライアンス相談窓口への報告のみに留めた。

問題は後者だ。A氏は当時、まずは相談程度のアプローチで、一旦C氏には通報があったことを知らせない方向で進めた。

A氏は、コンプライアンス相談窓口の担当者に、C氏の行為は安全配慮義務違反」パワハラ防止法違反」、および「セカンドハラスメント」にあたる可能性を伝えた。コンプライアンス相談窓口の担当者は、確かに人事評価の根拠の妥当性や被害者が納得いかないことについては問題視しているものの、法律面の話となるとこれを反らし、人事評価面談のやり方に関する問題点を挙げてきた。

また、コンプライアンス相談窓口は

「人事評価に関する相談はときどきあるものの、評価対象者をよく知るのは直属の上司であり、コンプライアンス相談窓口は介入していない」

としている。

コンプライアンス相談窓口の対応としては、(A氏が通報したことをC氏に知らせないため)C氏に対しては何もせず、全社員に対して「セカンドハラスメント」の一般知識に関する情報発信をした。また、コンプライアンス相談窓口により通報者のプライバシーは守られた。

しかし結局、これ以上は何も進展せず、A氏に対して行われた不当評価は修正等の回復がされることはなく、C氏に対しても懲戒処分がなされることはなかった。人事評価プロセス等の見直しや、特段の再発防止策もなかった。

3.パワハラ被害者に対する人事評価の不正について解説

この案件は、C氏が評価者としてのモラルに問題がある。コンプライアンス相談窓口の対応も一部疑問がある。C氏が行ったような、被害者に更に被害を与えるハラスメントのことを、「セカンドハラスメント」という。

A氏を低評価にした、根拠の文面をもう一度ここで確認しておく。

「他社(Y社)に対して、自己中心的な発言あり」

C氏がこの人事評価を行うにあたって、X社A氏がY社B氏からパワハラを受けていたことは既にわかっていたはずである。そのことを知りながら「他社に対して」のキーワードのみを切り取り、あたかも被害者に問題があるかのように見せかける印象操作であることがわかる。評価根拠の文面から「A氏のパワハラ被害が背景にあった」ことなど全く触れられておらず、会社側(評価する上司側)に都合の良いパワハラ揉み消し行為であると捉えられるだろう。

パワハラ被害者にとって、パワハラ被害を訴えたことが人事評価上の不利益に繋がるならば、安心して働くことができない、即ち安全・安心な職場環境とは言えず、安全配慮義務(労働契約法第5条)違反と言えるだろう。並びに、パワハラ被害に対して適切な対策を取っていないことからもパワハラ防止法違反と捉えられ、企業イメージが大きくダウンするリスクがある。パワハラ被害者へ、不利益を与えるセカンドハラスメントは社会的にも深刻な問題だ。
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また、後半の「自己中心的な発言」であるが、X社A氏がY社B氏から受けたパワハラ一連のやりとりのことを指しているならば、加害者にパワハラの是正要求を行うことが「自己中心的な発言」なのだろうかという疑問が生ずる。これは被害者が「自己を犠牲にしない」、即ち自己防衛のためのアクションであり、「自分の身勝手で他人に迷惑をかける」という「自己中心的」とは全く内容が異なるものだ。
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パワハラ被害者であるA氏の行いは、先の記事でも述べた通り社会的優良事例である。それにもかかわらず、今回C氏が行った人事評価は、A氏の勇気ある行動を踏みにじるものであるとともに、「社会的に正しいか」(社会目線)よりも「会社にとって都合が良いか」(会社目線)が基準になるという、不祥事の起きやすい体質であるどころか、この出来事自体がすでにこの企業の不祥事である。
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管理職が認識しておかなければならないのは、人事評価で低評価をする場合は、細心の注意が必要であるということだ。人事評価は評価対象者の処遇を決めるのみならず、今後の成長に向けた方向性の認識合わせや、改善課題の洗い出しが必要である。今回の場合は、このパワハラ一連の出来事以外でA氏に改善点があるなら、そこを明確にした根拠でなければならない。

もし、このパワハラ一連の出来事に関してA氏の改善点を挙げるとすれば、「他社の人間から受けたパワハラ被害に対して、個人ではなく組織での解決を試みる行動を期待する」旨のコメントが妥当であろう。これならば、背景としてA氏がパワハラ被害を受けたという事実が第三者から見ても明確である。

また、「会社対会社の関係性を考え、他社からのパワハラ被害を受けても、そこは空気を読め」という旨のコメントでも、都合が悪いことを隠蔽したい意図があからさまに表れて問題だ。しかし、今回の「他社に対して、自己中心的な発言あり」のコメントは、より最悪な結果である。なぜなら、人事評価という舞台の上で「A氏がパワハラ被害を受けた」ことを揉み消し、「A氏がY社に対して何かやった」という部分のみを切り取り印象操作した、X社にとって都合の良すぎる結果であるからだ。本来ならばC氏は、懲戒処分や損害賠償が必要な程度の不祥事である。不祥事以外にも、管理職が行う重要な業務の一つである人事評価と評価対象者の育成という職務を果たせていないという問題点もある。再発防止策の検討は当然必要だ。

4.企業のコンプライアンスとしても不十分

コンプライアンス相談窓口の対応については、社員に対して「セカンドハラスメント」の一般知識に関する情報発信をしたことや、通報者のプライバシーを守っている点に関しては良好な対応であると考えている。

しかし、問題点もある。「安全配慮義務違反」と「パワハラ防止法違反」等、法律面での話を反らし、人事評価面談のやり方に関する問題点に話の内容をシフトした点である。一見、会社にとっては無難な対応のようにも見える。いくら社内のコンプライアンス相談窓口とはいえ、自社の社員が違法行為をしたことを認めたくないというのが、人間としての心理だろう。しかし、C氏の行為は違法行為であることには変わりないのだ。そのことに、真摯に向き合うべきだ。更に、人事評価面談のやり方の問題の前に、C氏自身の人事評価に対するモラルが根本の問題であることを、第一に述べられなければいけない。

コンプライアンス相談窓口が

「人事評価に関する相談はときどきあるものの、評価対象者をよく知るのは直属の上司であり、コンプライアンス相談窓口は介入していない」

としている点については理解できるが、これを放置しておくことは、

「今回のようなハラスメントが起きても人事評価ならば介入できないからノータッチ」

というスタンスを貫くことになり、被害者にとっては自分の実績を正しく評価されないという不安を抱えることになる。

この案件は、人事評価の問題ではなく、人事評価という土台の上で起きたハラスメントであるため、C氏および組織のコンプライアンスの問題なのである。この意識を持っておくことが重要だ。コンプライアンスの問題に対する無策は、許容できるものではない。

コンプライアンスの重要性は年々高まり、世間の目は厳しくなっている。その流れに乗り遅れると企業にとって大きなマイナスとなるリスクを抱えており、将来取り返しのつかない事態になることを忘れてはならない。組織はパワハラに対して対策を取る義務がある。

最後に、被害者にとっては本当に残念無念でしかない。真っ当なことを主張したにもかかわらず、相手との力関係で不利益を受けるなど、本来あってはいけないことであるが、残念ながらこのような問題がある企業は少なくないのが現実だ。最悪の事態に備えて、自分が壊れる前に、自分のことは自分で守る術を身につけておかなければならない。不健全な組織に本当にあなたがいてあげる必要があるのか、考えるべきだ。

【最後に】パワハラにおける考え方・まとめ

パワハラは加害者および組織の問題、被害者に責任はない

パワハラは加害者が未熟であることによって発生する。パワハラに関して被害者には非はない。被害者に改めるべき部分があると思えば、改めることは素晴らしいことである。しかし、パワハラを受けたことに対する責任まで取る必要はない

一方、パワハラ加害者は重い軽いいずれにしてもそれなりの処分と教育を受け、更正してほしい。パワハラの加害者を絶対に昇格させてはいけない。降格するくらいを当たり前にしてほしい。

パワハラ加害者となる可能性が高いリーダー、管理職には、パワハラの重大さを知ったうえで、チーム・組織で成果を最大化するために必要なことを学んでほしい。私は様々なリーダー、管理職を見てきた。技術や能力が高いベテラン社員はある程度いる。しかし、いくら能力が高くてもパワハラ気質なベテラン社員は、管理職にふさわしくないと判断している。組織のメンバーのパフォーマンスの最大化の妨げとなっているからである。チーム・組織で成果を最大化するためにパワハラはいらない。一方、被害者はパワハラを受けた状況にもかかわらず業務において一定のアウトプットを出しているなら、優秀な人材であると考えて良さそうだ。

パワハラがいけないことであるということは皆知っている。しかし、何がパワハラに当たるか、パワハラが発生したときにどのような影響が出るかを理解していないのではないだろうか。パワハラに関する研修や教育は行われているが、最悪命に関わるということを教えていないのではないだろうか。

パワハラ対策の第一歩は証拠集め

パワハラは加害者および組織の問題としながらも、被害者が対策しなければならない。実に理不尽だ。放置や無策、我慢することはお勧めできない。エスカレートするからだ。その対策の第一歩としては証拠を集めることだ。電子メールやチャットのやりとりでパワハラに繋がりそうなものがあれば残しておく、会話についてはスマホでも良いがICレコーダーで録音しておくことをお勧めする。裁判等で確実な証拠となる。

自分を守るための準備も並行して進める必要がある

こちらも本来被害者側に要求しなければならないことは社会的に非常に残念ではあり、理不尽ではあるが、パワハラ被害に遭う前から、転職、起業、フリーランス、副業など準備を進めておくことが、被害者個人でできる対策だろう。あらゆる手段で自分の人生を守るよう、準備を進めておくことをお勧めする。それくらい日本のハラスメント対策は国際的に見ても遅れている。






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いざというときの退職も安心!

そして準備が整った後、いざパワハラ被害を理由に退職する際に、損害賠償など、企業の不祥事によって受けた不利益を取り返すアクションを起こしたいと考えている方は、弁護士が運営する退職代行を、なるべく安い費用で退職代行の活用を考えておられる方は労働組合が運営する退職代行の活用を視野に入れていただきたい。