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IT・ソフトウェア業界の闇!多重下請け構造の弊害

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IT・ソフトウェア業界における「多重下請け構造」は日本特有のものであり、弊害が多くあるにも関わらず、なかなか是正されない問題である。

個人でできることは限られているが、この記事を参考に「多重下請け構造」脱却へ向けて行動を起こしてほしい。


1.日本特有の多重下請け構造

日本のIT業界やソフトウェア産業多重下請け構造であることが少なくない。

IT業界だけでないかもしれないが、日本が異常であることの一例である。

多重下請け構造とは、システム開発等において下請け企業に発注する構造が、多重に行われることを指す。

大元の「発注元」がシステム開発を依頼した際に、これを直接受注する企業を「元請け」という。「元請け」はシステム開発を行う一部のサブシステムもしくは一部の開発工程を下請けに発注する。これを「一次請け」とも表現する。下請け企業は、受注したシステム開発の一部または全部をさらに下請けの企業に発注する。「二次請け」「孫請け」とも表現する。

このように受注したシステム開発の一部または全部を他社に発注する流れが、多段階に渡っている。

多重請負は、ひとつのシステム開発に多くの企業(ステークホルダ)が関連し、コミュニケーションの齟齬をはじめ問題が多い。多くの企業を取りまとめることは至難の業である。

多重請負の末端の企業には、発注元の企業の要求や業務内容に関する知識が伝わりにくく、要求通りのシステムが完成されにくいこともある。酷い場合は、末端に企業は言われた通りにプログラミングするのみでそもそも(セキュリティ面の都合もあって)何を作っているのかわからないこともある。

下請けになるほど、長時間労働をはじめとするブラックな労働環境となることも当然のようにある。

なぜ、このようなことになるのか?

考えられる点としては、日本の歴史的な背景にある。

日本は製造業が強い国であり、長らくモノ・ハードウェア中心の製品開発が行われてきた。そのような状況の中でIT・ソフトウェアは業務効率化のためのツール程度のものと軽視してきたことにある。そのため、企業の中でも、経営企画部門、製品企画部門、製品開発部門、ハードウェア開発部門、ソフトウェア開発部門につれて、段々と地位が低くなり、企業間の競争が熾烈になるにつれて業務効率化を求め、ソフトウェア開発を安い賃金で外注化する流れとなってしまった。このことが多くの企業で多段階的に行われるようになった。製品・サービスの価値を提供するのはソフトウェアであることに気づいた海外企業が、ソフトウェアを主流としたビジネスを展開していく中、日本は過去の成功体験から抜け出すことができず、全く逆のことをやってしまったため、日本の製造業は国際的に大きく遅れを取ることになってしまった。

2.企業による年収の差

多重請負構造の中でシステム開発に関わる人たちの間では年収に差がある。元請け企業に近い社員ほど年収が高く、末端の下請け企業の社員ほど年収が低い。中間の企業がどんどんマージンを引き抜いていくからである。その結果、例えば元請け企業に近い社員の年収が1000万円に対して末端の下請け企業の社員は年収300万円ということもある。

システムの設計には専門知識が必要である。プログラミングには専用のプログラミング言語に関する専門知識が必要である。しかし、このような作業は下請け企業の社員が行うことが多い。高度な知識や技術が必要な割には年収が安く、割に合わない。

IT業界の多重下請けは、二次請け、三次請けなんて当たり前。もちろんこれも問題。依頼元は高額を支払っており、元請けはそれなりの金額で業務を請け負っている。しかし、ソフトウェア開発を担っている末端企業のエンジニアに行き届く単価がいくらになっているのかはわからない。これでは優秀なソフトウェアエンジニアほど不満を持つことになるだろう。

3. セキュリティにも問題がある

2021年1月、三井住友銀行SMBC)などのソースコードが流出したニュースが話題になった。

www.itmedia.co.jp
xtech.nikkei.com

三井住友銀行SMBC)のシステムに関連するソースコードが外部のWebサイト上に無断で公開されていたとの内容だ。これは委託先の企業に勤務するSE(システムエンジニア)から流出したとみられている。幸い、顧客情報の流出はなく、セキュリティに影響はないとしている。委託先のSEとみられる人物が、自身の書いたソースコードから年収を診断できるWebサービスを利用するため、SMBCなどから委託を受けて開発したコードをソースコード共有サービス「GitHub」に公開したのが原因と報道されている。

ソースコードを公開した人物は「転職の準備のために現在あるコードをアップした」と説明。

ソースコードを含む業務情報が流出したことはセキュリティ上問題ではあるし、そのソースコードを公開した人物自身の反省は必要である。しかし、その人のモラルの問題だけではない。その人の属する企業(委託先企業)の問題、その企業に委託した委託元企業の問題、それぞれ何かしらのセキュリティの契約の面での問題はある。

さらに見落としてはいけないのが、多重下請け構造の問題である。

依頼元である三井住友銀行SMBC)としても流出させた人間が、どこの企業に属する誰であったのかはわからないのではないだろうか。今回ソースコードを流出させた人間についても「多重下請け構造のどこかに存在した人」ということしかわからない可能性も普通にある。

多重下請け構造には大きなセキュリティリスクがある。上述の通り「どこの誰かもわからない人間」「関連する多くの企業」が依頼元企業の機密情報を扱うためである。

尚、「セキュリティの問題」と末端企業の社員の「低待遇の問題」とは全く別物である。待遇を良くすればセキュリティの問題がなくなるというわけではないが、どちらも多重下請け構造の問題が大きく関わっていることには間違いない。

4.多重下請け構造から脱却に向けて

優秀なソフトウェアエンジニアは大手メーカーへ就職し、そのメーカー企業内でソフトウェアを設計・作成することが、多重下請け構造から脱却の第一歩である。年収も下請け企業よりかは良いことが多く、労働環境がブラックである確率も低くなる。

私の経験では、大手メーカーがソフトウェア開発を下請け企業や子会社に丸投げするスタイルよりも、大手メーカーがソフトウェア技術者を中途採用し自社内に保有するスタイルのほうが、ソフトウェア品質も労働環境も良い。後者は、製品のことやエンドユーザーの要望を知った技術者がソフトウェア開発をするのだから当然である。大手メーカーの中でソフトウェア開発をするのだから複数の企業が一つのプロジェクトに関わる時のように企業間同士の契約関係も無いし、一体感を醸成しやすい。ソフトウェア開発を外注に丸投げするよりも、内製化できている企業の方が魅力的だ。
o08usyu7231.hatenablog.com

前述の三井住友銀行SMBC)のシステムに関連するソースコードを外部へ流出させてしまった技術者も、セキュリティやモラルに問題がある点は否めない。一方これとは別に、今の状況や収入に不満を持ち、転職の準備の一環として、自分の市場価値を知ろうとした。この行動については共感できる。この技術者がまともな企業に転職成功すれば、多重下請け構造の脱却へ向けて一歩進むことになる。セキュリティの問題とならないような手段で、行動を起こしてほしかった。

実際に私は下請けをメインとするIT企業から、大手メーカーへ転職し大手メーカーの中でソフトウェア開発を行うようになった。転職前後ではやや年収が上がったうえに労働環境が良くなり、生活面とのバランスが取りやすくなった。また企業にとっても、経験豊富なソフトウェアエンジニアを採用し、自社社内に保有した上で、有効活用できるメリットがある。大手メーカーが優秀なソフトウェアエンジニアを集め、大手メーカーの中でソフトウェア開発を行うことは、多重下請け構造をなくすための一つの方法である。

それ以外には、最近はやりのフリーランスという働き方もあるだろう。いずれにせよ、問題のある構造から脱却するための行動を起こそう。

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あと、企業としての取り組みは「ソフトウェア・ファースト」の実現に向かっていくことである。前述したように、製品・サービスに価値を提供するのはソフトウェアである。このことに気づき、しっかり内製化し、ソフトウェアエンジニアに対する待遇を改善することで、優秀な人材の流出を防止でき、優秀な人材の獲得の面でも優位になるのである。「ソフトウェア・ファースト」については、下記の記事や書籍を参照いただきたい。
o08usyu7231.hatenablog.com