「スケジュールを守る」のは社会人としての基本だ!と誰でも教わる。そして部分的に見れば正しいことだ。教わらなかった人はいないといっても良いのではないだろうか?
しかし、「スケジュールを守る」ための前段が破綻していたり、「スケジュールを守る」ために、長時間労働を強いられ、自分が犠牲になり、滅私奉公が当たり前になっていく。このような姿に疑問を持つ人もまた多いのではないかと察する。
即ち「無理なスケジュールを守る」「適切なスケジュールを守る」の両者が区別なく扱われ、「無理なスケジュール」を守ることによる、もしくは守ろうとすることによる個人の犠牲、企業の犠牲、社会的な損失があまりにも多すぎること、またこのことを軽視しているのが現実であろう。
では、「スケジュールを守る」というのはどういうことなのか? 無理をすることなのか?
企業における使用者、労働者ともこの記事を一読いただき、当たり前のこととして実行していただきたい。
1.「スケジュールを守る」ことは基本である
システム開発やソフトウェア開発には「納期」がある。開発に限らず他の職種にも「納期」「締切」があるものもある。「納期」までに完成させるために中間のマイルストーンを含めた「スケジュール」を決め、これに従って作業を進めていく。
「スケジュール」を守らなければ、チームで仕事をしている場合や、関係者が絡む場合など、他人に迷惑をかけることとなる。ここまでは基本であり、社会人であればすぐにでも教わる。いや、それ以前から誰もが知っている当たり前のことである。
ビジネスパーソンの中には、「スケジュールを守る」ことができない人が、残念ながらいる。「単なる怠慢、個人の問題」で済むなら、個人単位での是正が必要であるので、該当する人は取り組んでほしい。しかし、「単なる怠慢、個人の問題」ではない場合がほとんどであると思われる。
小さなことであれば、問い合わせのメールを発信して1~2週間返信がなかったケースがある。「それ、ビジネスパーソンとしてどうなんだ!」という思いもあれば、(その人のスケジュールを共有カレンダーにて確認することができるならばそれを見て)予定がいっぱい詰まっていて、余裕が無くて、忙しいんだろうなあと、ある程度想像力を働かせたりする。一部は、仕方がないことなのだろうが、少なくとも当日か翌日あたりに、受け取った旨の連絡や、荒めの一次回答など、早い反応が求められることがあるので、それくらいは対応してほしいと思う。相手への配慮が大切である。
2.「無理な納期」「無理なスケジュール」の強要に対する犠牲が大きすぎることを知るべき
しかし、逆に「厳しいスケジュール」「無理なスケジュール」「破綻したスケジュール」であっても、「スケジュールを守る」ために、無理して頑張り、拘束され、自由を奪われ、疲弊するのは、ビジネスパーソンとしてではなく人間として、純粋にかわいそうだなと思う。普通にそう思うのが人間であり、そう思わないのはパワハラ体質のサイコパスであると断言できる。
世の中悲しいことに、これが背景となって「長時間労働」、「過重労働」、「デスマーチ」、「ブラック労働」が蔓延し、作業者の疲労から生産性が落ちたり、品質や完成度が落ちたり、焦ってミスをしてトラブルになって更に完成時期が遅くなったりする。更にこれが悪影響を及ぼし、従業員の生活面に支障をきたしたり、健康面での被害を受けたり、従業員が見切りをつけて退職したり、最悪の場合は過労自殺を含む過労死に至ったり、企業イメージの悪化や信用の失墜に至る。
そして「スケジュール」を守れなかったことの理由が、
- 「自身の作業方法がまずかった」
- 「プロセスがまずかった」
- 「複数人での分担のやり方がまずかった」
- 「優先順位の見極めがまずかった」
なら、まだ改善の余地はあるが、
- 「そもそも業務量が多すぎる」
- 「難易度の高い業務なのに過少見積もりをされたスケジュールになっていた」
- 「提示されたスケジュールは純粋に作業に必要な期間であって、事前の調査が含まれていない」
- 「トラブルの発生を想定していない」
などというと「言い訳をするな」とか言って責められるのである。
「スケジュールを守る」ために無理をして、それでも守れなかったという結果だけを吊るし上げ、前段や背景を考慮せずして、頭ごなしに叱るという理不尽が横行していることがよくある。
改善の余地どころか、不信感が増すだけである。
そもそも「スケジュールを守る」とは、どういうことなのか?
「スケジュールを守る」ために無理をすることなのか?
「違う」と断言する。
「無理な納期」「無理なスケジュール」の強要は、会社内であっても会社間であっても、パワハラにあたる可能性があり、人権侵害を助長する行為である。即ち、コンプライアンス上許されないのである。これを強要する方も、強要される方もわかっておらず、多大な尽力の末に達成したとしても、以降はそれが当たり前になる。これは、企業・社会の「厳しさ」ではなく「粗悪さ」であり、このようなことがまかり通ると、個人・企業・社会、いずれにしても失うものが大きすぎることを、発注側、受注側ともに知るべきである。
3.「スケジュール守る」ことを達成しないことと、「スケジュール守る」ための前段が破綻していることとは全く異なる
「スケジュールを守る」ことを要求すること自体は正しいことである。
それなのに上述の労働問題が至って多く、「スケジュールを守る」ために過労死基準の残業となることがある。問題はその「前段」である。
ブラック企業やこれに準ずる企業ほど「前段」を考えず、「スケジュール」を守れなかったという「点」だけに着目して、末端従業員のせいにすることがよくある。「前段」とは、
- そもそも「スケジュール」自体が適切なのか
- トラブルや不測の事態を考慮してバッファを持たせているのか
- 無理なくできるのか
という、「結果」や「点」に至るまでの全てであると考えている。
余裕がある「スケジュール」にも関わらず従業員の怠慢によって「スケジュール」を守れなかったならば、これはお叱りを受けても仕方がないだろう。
しかし、「スケジュール」を守ろうとすれば労働問題もしくはその可能性に至るほどの状態で、「スケジュール」を守れなかったケースに対して、従業員の怠慢と同じレベルで語る企業や人がいるのが驚きである。
このような現状から、私は「スケジュールを守る」を次のように定義したい。
〇:余裕があり、無理なく守ることが可能なスケジュールに対して、怠慢なく確実に守ることを指す。
×:余裕が無く、無理なスケジュールに対して、長時間のブラック労働をもって強引に暦上間に合わせることを指す。
後者は「スケジュール」が守れなかったとしても、それは「スケジュール」を守れなかったのではなく、「スケジュール」を守る以前の「前段」が破綻しているのである。その「前段」の破綻をブラック労働で賄っているだけである。
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「ブラック企業対策のノウハウを知りたい」
4.「スケジュールを守る」とはどういうことか、正しく認識して健全な労働環境を
「十分守れるスケジュールに対して、確実に守るために進捗管理をする」と言う人がいた。私が作業したことのあるホワイト企業現場での出来事だった。「すばらしい」と思った。しかし、たいていのエンジニアは顧客の要求に応えることを優先して、多少無理なスケジュールでも強引に守るスタイルがまだまだ多いのではないだろうか?
あと、私の経験では「トラブルを想定していない企業ほど、トラブルが多い」といった傾向がある。優良企業ほどトラブルに備えてバッファを持たせたスケジュールとし、無理のないようにしている。不良企業ほど「なぜ、そんなに工数がかかるのですか?」と問い詰め、バッファを持たせようとしない。結果、過重労働の未然防止を妨害している。
「スケジュールを守る」ことは必要だが、守れないときは守れないとできるだけ早く言おう。これは企業でも若手社員がよく教わることだ。進捗管理をしながら、スケジュール遅れの予兆があればできるだけ早く声を挙げることだ。そして、企業側はそのような声を挙げやすい環境づくりが必要だ。
「無理なスケジュール」となる原因は、たいてい
- 無理な納期で要求してくる要求元の問題
- 無理して受注のみを懸命に行う営業や、無理のある企画の問題
- 常にギリギリのリソースで組織運営している経営陣・管理職のマネジメントの問題
「スケジュールを守る」ことで労働面においておかしな世の中にならないように、「スケジュールを守る」ことがどういうことか正しく認識し、皆が快く業務に取り組める健全な環境であってほしい。まともな労働者は健全な環境に移り、「スケジュールを守る」ことの未達成と、「スケジュールを守る」ための前段が破綻していることを混同するような組織が滅びることで、長時間労働やブラック労働が無くなってほしいと思う。
そのためには、
- 「『余裕を持った適切な』スケジュールを守る」
- 「『前段が破綻したことのしわ寄せを受けた無理な』スケジュールを守る」