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「客先常駐」における「偽装請負」諸々の問題、および改善と脱出

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IT業界におけるシステム開発プロジェクトで、エンジニアがお客様先の企業に常駐して開発を行うスタイルを「客先常駐」と呼んでいる。

そして、以前から「『客先常駐』はブラック」と業界では言われている。なぜなら「偽装請負」が発生しやすいからである。

「客先常駐」において「偽装請負」が問題であることは多くの記事で述べられている。「客先常駐」自体は、ソフトウェアエンジニアにとって経験が積める良い企業もあるが、常駐先の客先企業における「コンプライアンス意識」や「マネジメント能力」に依存するところが大きい。

偽装請負」は違法行為である。「派遣契約」なら問題無くても、「請負」でこれをやるのは問題という点はいくつかある。この記事では、私が過去に遭遇したことのある「偽装請負」の実態について触れる。


1.「客先常駐」における「偽装請負」について前置き

偽装請負」についての説明は下記を参照いただきたい。
jsite.mhlw.go.jp

また、客先常駐でも「請負」と「派遣」の違いがある。概要のみ簡単に説明する。

派遣とは発注主(企業)が派遣会社と労働者派遣契約を結び、派遣会社が発注主(企業)に人材を派遣する契約形態である。「労働力」に対して報酬が発生し、契約期間には定めがある。派遣労働者への指揮命令権は発注主(企業)にある。発注主(企業)は派遣会社と労働者派遣契約を交わしているため、勤務先となる発注主(企業)に労働法などが適用される。

請負とは発注主(企業)が請負会社と請負契約を結び、請負会社が特定の成果物を発注主(企業)に納品する契約形態である。「成果物」「完成した仕事」に対して報酬が発生し、契約期間に定めがない。請負労働者への指揮命令権は請負会社にある。請負労働者は依頼された仕事をするだけで、請負労働者は勤務先企業と対等な関係である。労働法は適用されない。

これらを踏まえて「偽装請負」について説明する。

偽装請負とは、書類上の契約形態は「請負」としながらも、実態は「派遣」である状態。違法である。発注主(企業)にとっては、請負労働者に対して直接指揮命令はするが、労働法などを適用せず、労務管理を行わないという都合の良い部分のみをつまみ食いするイメージであり、請負労働者がブラック労働になりやすい点が懸念されている。

私は、新卒で入社したIT企業に在職中、ある大手メーカーへ客先常駐として勤務し、ソフトウェア開発に携わっていた。私の会社から私と同じように10名程度の社員が常駐していたが、それぞれ常駐先企業の複数の組織(グループ)に分散され、フロアは同じであるものの、座席は離ればなれになり、常駐先の顧客と一緒に仕事をするスタイルであった。

当時は「偽装請負」に関する知識もなく、常駐先社員と一体になって業務を進めてきた。更に、この現場には長年お世話になり、色々成長もできたし、私に限って言えば、常駐先の社員の指導・教育にも携わったくらいであり、常駐先の社員と区別がつかないこともやってきた。

この常駐先企業、特に私が常駐先企業内で所属していたグループは、

  • 正社員
  • グループ企業の社員
  • 請負常駐社員
  • 派遣社員

と、皆分け隔て無く扱われ、和気あいあいとしており、この点は大変良いと感じた。

しかし、上述にて説明した通り、「客先常駐」における「偽装請負」は違法行為である。当時は何の違和感もなく当たり前にやってきた。今考えればおかしい点について次章で書き並べる。

もし、類似の状況に遭遇している人は、詳細を調べた上で、ブラックの可能性があることを頭の片隅においておき、転職等自社開発が可能な環境へ身を移すことを考えることをお薦めする。

2.「客先常駐」における「偽装請負」他問題事例

私が過去に長年お世話になった常駐先ではこのようなことが行われていた。一般的な「偽装請負」とは異なる部分、「請負」に限った話ではない部分もあることをご了承いただきたい。

(1) 業務命令をする(労務管理もする)

一般的に言われている悪質な「偽装請負」は「労務管理」はしないが「業務命令」はする。前者に「請負」という部分を都合良く使う、最悪なパターンである。私が昔常駐していた顧客企業は、「業務命令」も「勤怠管理」もする。本来ならば「請負契約」の企業同士が行うことではない。

正社員も、グループ企業の社員も、請負常駐社員も、派遣社員も分け隔て無く扱われるため、現場の座席配置も、常駐先企業での業務におけるチームごとに固められ、正社員、常駐社員関係なく、混在している状態である。

常駐先の正社員から直接指導される。客先企業の社員から、自社の部下のように「○○君」と呼ばれる。「業務命令」を常駐先社員から常駐元の責任者を通さずに、常駐担当者に直接行われる。

(2) 常駐先社員の下に請負社員を置く

私の会社から新たに請負社員を投入したとき、当該請負社員を常駐先社員が直接管理しやすいように配置する。請負なのに体制を決める権限がこちらに無い。(この時点で違法)

投入された請負社員と同じ、請負元の上位者が同じ組織にいるにも関わらず

「同じ会社の人同士を同じチームに配置すると指導が甘くなる」

などと、最もらしい理由を付け、切り離そうとする。常駐先社員が請負社員を直接管理できないので、完全に違法となる。(「派遣契約」なら問題なし。)

また、常駐先企業の社員が直接管理している請負社員について「スキルが不足している」と、請負元に連絡が入ったが、同じ請負元のリーダークラスの社員(=私)が管理することでスキル不足による業務への問題を解消した。常駐先社員よりも請負元社員によるマネジメントが優れていることが証明された形だ。

(3) 研修と成果発表をさせる

新規に投入された請負社員に、「研修期間」と称して最初の1ヶ月間作業させ、その1ヶ月経過後に「研修の成果発表」と称して、その内容を請負社員に発表させる。そして、1ヶ月間の業務内容と発表内容見てを、常駐先のマネージャが合否を判断し、継続して常駐させるか否かを決める。

あり得ない。作業場所が顧客企業だからという理由で、請負社員を自分の会社の部下と同じ扱いをしている時点で、違和感を感じる。一般の人達であれば、なぜ顧客にこのようなことをされなければいけないのだろうかと違和感を持つ。

(4) 帰社が多くなると文句をつける

これは「請負」「派遣」限らず、他社の社員を何でもかんでも自分達の都合の良いように使えるわけがないことくらい、あらかじめ知っておくべきである。そもそもこれが嫌なら、「他社から要員を確保せず、全部自社の社員で賄えや!」と言われてもおかしくない。
o08usyu7231.hatenablog.com

(5) 長時間労働&社外要員だけで徹夜作業

これこそブラックの極みである。これも同じく「請負」「派遣」関係ないが、長時間労働や徹夜というだけでも十分問題である上に、常駐先企業敷地内にある建物に、常駐社員(派遣含む)のみで徹夜作業をしており、常駐先社員が一人もいないというのである。

常駐先社員による管理不行き届き、およびセキュリティ上の問題がある。

(6) 休暇の了承が必要

自社の上司に休暇の了承を得るのは普通である。自社開発において、従業員が休暇を取る場合、いちいち顧客から了承を得ることは普通はしない。

しかし、「客先常駐」における「偽装請負」の場合、常駐先の社員に了承を得ることが求められる。請負は常駐社員の勤怠管理などしないのが一般的だが、「ここ(常駐先)で一緒に仕事をしているから」という最もらしい理由で正当化される。違法。(「派遣契約」なら問題なし。)

(7) 常駐先の作業服着用を義務付けられる

請負元である他社の従業員に服装を指定するのは本来おかしな話である。請負元の企業の作業服があれば、それを着用することは問題ない。スーツでも問題ない。

常駐先企業で着用する作業服について、派遣社員は貸与という扱いであり、これは普通である。しかし、請負社員は購入させられる。開発に必要な道具・ツール一式は請負元が準備するという建前だ。請負社員を散々常駐先の正社員や派遣社員と同じ扱いをしておきながら、「常駐先企業にとって都合の良い部分だけ請負」という建前を適用する

常駐先における作業服に関するトラブルも発生している。下記の記事を参照いただきたい。
o08usyu7231.hatenablog.com

3.「客先常駐」における「偽装請負」の実態と改善

偽装請負」を行う企業は、それぞれの要員に対して直接自由に指揮・命令しながら、「請負」の方が都合の良い部分だけ「請負」を適用するずるい企業である。

例えば、冒頭に挙げた、労務管理」はしないが「業務命令」はするといったようなものである。先程事例に挙げたの現場における、「作業服を着用することを義務付ける」が「作業服自体は請負企業が購入する」という話もその一例であるかもしれない。

一方事例に挙げた常駐先現場では、私がリーダー職に昇格したころから、請負適正化の動きがかかった。ある時期の現場事務所の席替えを機に、座席配置が「チームごと」から「所属会社ごと(派遣除く)」に固められ、座席の島に会社名を表示するようになった。

それまでは所属会社関係なく同じチーム(プロジェクト)のメンバが近くにいたため業務を進めやすかったが、チーム(プロジェクト)のメンバーが離れた席にいることから多少業務をやりにくくなった点は正直なところだ。しかし、ようやく請負適正化への改善に向けて第一歩が動き出した感じだ。

それでも、座席配置の変更はまだまだ形だけのものだった。指揮命令系統の改善には、まだまだハードルがある。

  • 「ここ(顧客企業内現場)で一緒に仕事をしているから」
  • 「これまでの業務の進め方の流れから、まだまだ完全請負にするのは難しい」

常駐先企業の社員は、最もらしいことを言うのだが、そもそも「これまでの業務の進め方の流れ」が「違法」だ。。。意識が低い。。。

4.「客先常駐」における「偽装請負」からの脱出

一般的には「客先常駐」よりも「自社開発」の方が良いと言われている。自社のやり方で、自社の開発プロセスで、自社の権限でプロジェクトを動かせる。そして、経験を積み重ね、主にマネジメントのスキルがアップする。

私はこの例に挙げた、大手メーカーで長年「客先常駐」としてお世話になったが、「偽装請負」と「次へのステップアップ」を理由に、この大手メーカーでの常駐作業を終了し、「自社開発」プロジェクトへ異動することとなった。幸い、私が在職していたIT企業は、「自社開発」も「客先常駐」も行っており、部署にもよるが大体半々くらいである。長年の「客先常駐」を終え、これまでとは異なる「自社開発」の経験を積み、スキルアップをしようと考えていた。

いざ蓋を開けてみると、「偽装請負」は脱出できたが、「自社開発」はこれまでと勝手が違う。労働環境が「ブラック」であり、生活面や健康面に限界が来た。当初「『自社開発』は、私には合わないのかもしれない」と考えた(が、後に違うことに気づく)。そして、再び別の「客先常駐」へ、その後、「自社開発」、「派遣」と様々な開発現場を経験した。

ここまででわかったことは、私が新卒で入社したIT企業が下請け・孫請けが中心であり、「自社開発」におけるリーダー・管理職のマネジメントが未熟であるということである。業務は丸投げで、中身を知らないが口は達者な人が管理職になっているため、大手メーカーで実績を残した優秀な人材でさえ嫌気が差す程である。当初私は「自社開発」ができるほど自分のスキルが伴っていないと思い込んでいたが、様々なプロジェクトや世間・業界一般における知見をインプットすることで、その思い込みが間違いであることがわかっている。

前述したように、一般的には「客先常駐」よりも「自社開発」の方が自社のプロセスや権限で進めていくため、スキルアップがしやすいと言われている。しかし、私が在籍していたIT企業ではこの逆である。(良い顧客であれば)「客先常駐」のほうが顧客企業のリーダー・管理職のマネジメントの方が優れていて、労働環境も良く、じっくり腰を据えて開発業務に取り組めるため、成長に繋がるのである。

そして大手メーカーへの「客先常駐」が長かったことを強みとして、下請け・孫請けが中心のIT企業から大手メーカーへ転職した。職種は転職前と同じソフトウェアエンジニアである。転職後は、大手メーカーの社員として「自社開発」を経験している。もう「偽装請負」の心配はない。下請け・孫請けが中心のIT企業のような「ブラック」ではない。転職をもって、本当の意味で偽装請負」からの脱出に成功したと言える。

転職後の企業の開発現場でも、常駐している請負企業(協力企業)が存在するが、私が昔経験したような「偽装請負」ではなく、「正規の請負」である。協力企業への業務依頼は窓口を通しているし、協力企業の社員の方の服装について指定することもしていない。これが普通だ。

私の場合は、上述の通り「客先常駐」における「偽装請負」の開発現場から脱出し、転職もした。しかし、「偽装請負」が当たり前、「偽装請負」が違法とは知らない人が多いというケースもまだまだあるのではないだろうか? 更には「偽装請負」を放置しているような企業は、他にも違法行為をしている可能性があり、誰かが声を挙げなければ、企業が自ら改善するとは考えにくい。近年は、「ブラック企業」「違法行為」「ハラスメント」等、労働者側も知識を付け、声を挙げるようになった。それでもまだまだ違法や理不尽は横行している。さらに多くの方々に、労働に関する知識を付けていただき、違法行為をする企業が滅びる世の中にしたいと願っている。

労働トラブルにフォーカスを当てた資格は、私自身これまでにあまり見たことがありません。「労働トラブル相談士」資格は、経営者、管理職、人事担当者、コンプライアンス研修担当者に限らず、全労働者が知っておいた方が良い知識であり、また現在ブラック労働環境に在職している方には必須の内容と言えます。

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