ソフトウェアエンジニアが労働について情報発信するブログ

ブラック労働からホワイト労働まで経験したソフトウェアエンジニアが世の中にとって役立つことを情報発信していく。

組織の活性化や社員の成長に必要なことは「やりがい搾取」ではなく「阻害要因の除去」であると断言する

リーダー・管理職・経営者は、「自社の社員に成長してほしい」、と思っていること自体は、どの企業でも共通であり、当たり前のことである。問題は、成長してほしい社員に対してどのようなアプローチを取るかである。リーダー・管理職・経営者以外にも、指導・教育に当たる人、更に「やりがい搾取」に遭っているかもしれない人を含めた全てのビジネスパーソンにこの記事を読んでいただき、社員の成長や目標の達成、組織の活性化に何が必要かを理解していただきたい。

目次


はじめに

「やりがい」とは「物事に対する充足感や手応え」と言われている。「達成感」「能力の発揮」「成長」「評価・報酬」など、何を「やりがい」とするかは人それぞれである。

一方、「やりがい搾取」は、「労働者の『やりがい』『意欲』を利用して不当に働かせること」と説明されている。労働・成果に応じた評価・報酬が不十分、または労働環境が劣悪なまま放置するも、労働者に対して「やりがい」のみを強く意識させ、労働者にとって都合の悪いことを間接的に黙らせるためのマインドコントロールであると言える。

また、「やりがい」は前述したとおり、何をもって「やりがい」とするか、「やりがい」があるかどうかは、働く人個人個人が決めることなので、「この業務はやりがいがあるぞ!(だから給料が少々安くても我慢しろ!)」などと「やりがい」があると感じることを他人に強要することも、「やりがい搾取」の一種ではないだろうか。

成長や目標達成を通して「やりがい」を感じるために必要なことは何か。結論から言うとそれを達成するための「前段」を整えること、つまり「阻害要因の除去」である。「阻害要因の除去」が不可能なら「阻害要因の低減」でも良い。

多くの人間は、成長や目標達成のために一生懸命業務に取り組む。でもうまくいかないことがある。未熟な管理職ほど成長させたい社員に

  • 「期待している」
  • 「頑張ってほしい」
  • 「成長してほしい」

などと、成長させたい社員の尻を叩き、アクセルを踏ませようとする。更に、「厳しい指導」と称したパワハラ等により、成長させたい社員を奮い立たせ、

  • 「パワー」
  • 「圧力」
  • 「やりがい詐欺」

でもってコントロールしようとする。これは指導のプロではない。

有能な管理職は、成長してほしい社員にとっての「阻害要因」を共有し、その除去(もしくはそのサポート)に尽力し、パフォーマンスを発揮させ成長させるための「前段」を整える。ここが大きな違いである。

管理職でない一般社員としても、管理職の良し悪しを見抜くポイントとして覚えておいてほしい。

以下、ほんの一例であるが、「やりがい搾取」を含めた要求・期待に対して、その「阻害要因」、「阻害要因」の克服を含めた「解説」を紹介するので参考にしていただきたい。

1.教員

【「やりがい搾取」の可能性があるアピール・要求・期待】

近年、「教員」の重要性が増してきている。少子化の時代において、一人ひとりの子供の存在は貴重であり、質の高い教育が求められる。「教員」は、子供達と共に自分自身も成長でき、大変「やりがい」を感じる仕事である。

【要求・期待を実現する上での「阻害要因」】

授業およびその準備だけでも大変な上それ以外に、保護者対応、部活動指導等、休日返上で勤務する割には賃金が安く、極めて労働環境が劣悪である。長時間労働が大いに問題視されており、学校によっては教員同士のパワハラもある。鬱病になる教員もいる。

【解説】

職業の一種として分かりやすい「教員」を例に挙げた。「子供達と共に成長」や「教員」としての「やりがい」は、「教員」を募集する謳い文句としてよく見られる。いくら「教員」の「やりがい」をはじめとする良いところをアピールされても、長時間労働など裏側の問題が悪影響を及ぼしているため、「教員」を辞めていくのである。こうした現実に目を向けない良いところだけのアピールは、「やりがい搾取」である。

また「質の高い教育が求められる」といった、「教員」に対してのハードルを上げるような謳い文句の割には、低賃金といった「前段の粗悪さ」が丸見えであり、このような状況では「教員」は集まりにくい。

本当に「教員」を募集したいなら、「阻害要因」に目を向けるべきであり、長時間労働パワハラ、いじめの問題など、教育委員会と一丸となって是正・改善していく取り組みを強化しなければ、将来はない。

2.異動

【「やりがい搾取」の可能性があるアピール・要求・期待】

会社都合ではあるが○○には△△部門へ異動してもらい、今後も頑張ってもらいたい。○○にとっては、異動先でこれまでとは異なる業務を経験でき、新しい人間関係を構築でき、キャリアを積んで、「やりがい」を感じることで、将来への可能性を大いに広げることができる。会社としても、色々な人に色々な業務を経験してもらい、属人化を防止させたい意向がある。

【要求・期待を実現する上での「阻害要因」】

現在の業務に満足しており、なぜ○○が異動の対象となるのか妥当性について疑問である。不慣れな業務、不向きな業務へのアサインにより、異動対象者○○への負担が大きく、効率やモチベーションが下がり、組織全体のパフォーマンスが下がる可能性がある。また、異動対象者○○の気持ちへの配慮、○○自身の意向、向き不向き等、様々な点を考慮すべきにもかかわらず、一方的な決定であり大変遺憾である。

【解説】

これは私が実際に受けたことがあるマネジメント研修での、面談演習の内容である。異動を嫌がる部下に異動を説得する上司の役割を担うというものである。この研修で私がやってしまったのは、異動することのメリットをしっかり伝えることであった。これとは別の研修で、このような状況に遭遇した時「上司は部下に、異動することのメリットをしっかり伝え、共有し、部下を納得へ導いていく」と教わった覚えがあり、その通りに実践したのだが、この研修の解説によると、どうやらそれが間違っていたようだ。自分でもできていないことがよくわかり納得した。

この場面で上司側に必要なのは、「異動するにあたって何がネックになるか」という「阻害要因」をしっかりと聞き出すことである。聞き出すだけではダメだが、聞き出した時点で部下には「しっかりと自分の話を聞いてくれた」と認識を持ってもらう。そして「阻害要因」を一つ一つ除去していくことである。

部下が不安に思っていることがあればその点をヒアリングしておき、業務のサポート体制など、異動先の部署に根回ししておく。必要な研修や教育を受けさせる。現部署に戻る可能性があるならそれも考慮しておく。異動先の部署がいくら「やりがい」があるとはいえ、異動する本人にとって遭わなければ、本人にとっても、組織にとっても、不幸なミスマッチを招いてしまう。「異動するのは部下だから、上司にとっては他人事」と思われるような軽い扱いは絶対にしてはならない。

3.転勤

【「やりがい搾取」の可能性があるアピール・要求・期待】

会社都合ではあるが○○には△△へ転勤してもらい、今後も頑張ってもらいたい。○○にとっては、異動先でこれまでとは異なる業務を経験でき、新しい人間関係を構築でき、キャリアを積んで、「やりがい」を感じることで、将来への可能性を大いに広げることができる。会社としても、人員が不足している地域へのアサインが必要であり、「全体最適」の観点から理解してほしい。

【要求・期待を実現する上での「阻害要因」】

転勤は本人だけでなく、その家族にも大きな負担を与える。特に、育児、介護を抱えている社員にとっては、キャリア云々以前に、生活に大きな支障をきたす。そもそも会社都合で住む地域を決められるのは人権侵害でしかない。

【解説】

「転勤」は日本では当たり前とされてきたが、近年では時代に合わないと問題視されている。そもそも、海外ではありえない話である。「転勤」を受け入れることができる人はまだ良いにしても、前述したような家庭の事情で「転勤」が受け入れられない人は、どれほどすばらしいキャリアプランを提示されたところで、大きな「阻害要因」どころか、不可能なことである。

これの解決策としては、キャリア構築や人材育成、業務のローテーションが目的なら、「転勤」以外の方法を検討することである。「転勤」を伴わない業務割り振りや、現地採用、更には近年「テレワーク」の普及により、遠方の地域に存在する組織に所属しているが普段の業務はリモート(自宅近くのオフィスもしくは自宅)で行うといったケースもある。リモートワークは環境構築の面の「阻害要因」はあるものの、これまで問題となっていた物理的な距離があるという「阻害要因」が一気に解消される形となる。ぜひ、積極的に活用されたい。

また、「転勤」をテーマとした別記事も参考にしていただきたい。
o08usyu7231.hatenablog.com
o08usyu7231.hatenablog.com
o08usyu7231.hatenablog.com

また、人員が不足している地域へのアサインを(企業にとっての)「全体最適」と表現されている。「転勤」が本当に「全体最適」なのかは疑問だ。企業の上層部や管理職にとっての部分最適である可能性が高く、前述したように社員やその家族を犠牲にしているとも言える。「全体最適」とは特定の社員を犠牲にすることではない。
o08usyu7231.hatenablog.com

4.長時間労働

【「やりがい搾取」の可能性があるアピール・要求・期待】

若いうちから様々な業務を任せられ、幅広く経験を積むことができ、裁量が大きく、「やりがい」があり、圧倒的成長を実現できる。

【要求・期待を実現する上での「阻害要因」】

長時間労働になりやすく、健康面、生活面で被害を受けるリスクが大きい。若い独身の間なら問題点として表面化しなくとも、将来的にライフステージの変化に対応できないリスクがある。

【解説】

「様々な業務」「幅広い経験」「裁量が大きい」「圧倒的成長」は、「ブラック企業」を中心とした求人広告にてよく見かける「やりがい搾取」の典型である。
o08usyu7231.hatenablog.com

「ハードワークでも良いから成長したい。経験を積みたい。」と考えている人にとっては魅力的な内容であるが、ここでの「阻害要因」はやはり「長時間労働」だろう。「長時間労働」を避けたい人、家庭の事情によって実現不可能な人にとっては、どれほどすばらしいキャリアプランを提示されたところで、全く魅力がないものとなる。

ここで「阻害要因」を解消するとすれば、「ハードワークでも良いから成長したい・経験を積みたい」人、「ワーク・ライフ・バランスを実現したい」人ともに共存でき、働き方の多様性を認めるような組織風土づくりに注力することだろう。「長時間労働」を可とする場合であっても、健康面の悪化や、法律への抵触が無い範囲内とすることを徹底する。そして、「どのように活躍し、どのように成長したいか」を上司と部下が共有し、それに沿った業務アサインを実現することで、そもそも「長時間労働」でなくても成長できる「前段」を整えることが必要である。

「社員の頑張りが足りない」と称し、成長させたい社員の尻を叩き、アクセルを踏まそうとする等、圧力をもってコントロールすることは、マネジメントが未熟であることの裏付けであり、「長時間労働」や「業務範囲が曖昧なカオス状態」のことをポジティブに言い換えている企業は高確率で怪しいと考えた方が良いだろう。

5.システム開発プロジェクトを通しての若手エンジニアの更なる成長を期待

【「やりがい搾取」の可能性があるアピール・要求・期待】

一生懸命業務に取り組んでいる若手エンジニアだが、思ったほど成長していない。本人の成長のために任せられる仕事をもっと任せ、もっと負荷をかけ、一つの開発プロジェクトを一人でこなせるくらいになるべき。多くの人間は少々のことでは破綻しないし、「やりがい」を感じるだろう。

【要求・期待を実現する上での「阻害要因」】

システム開発において、若手エンジニアの成長はその通りなのだが、他にも「品質」「コスト」「納期」「労務管理」と、守るべきものは多々ある。若手に負荷をかけるだけなら、たとえ成長できたとしても、その他のことがおろそかになり、破綻を招く。

【解説】

これは非常に難しいテーマである。システム開発プロジェクトにおいては、「品質」「コスト」「納期」(QCD)を守るだけでも色々と工夫が必要であるうえ、「労務管理」や「エンジニアの成長」となると更にハードルが上がる。未熟なマネージャは、目の前の「納期」を重視し、労務管理」が杜撰になりデスマーチとなる。IT業界によくある典型である。

ここではこれらの多岐にわたる内容のどれかを優先すればどれかが疎かになることが「阻害要因」だろう。「エンジニアの成長」に目を向けてみると、一つの開発プロジェクトを一人でこなせるくらいになるには、作業内容を増やし、色々なことを任せるといったことが考えられるのだが、これが行き過ぎると「労務管理」が杜撰になる。

例えば、上位者は成長させたい若手エンジニアに対して、一方的な「教育」「指導」「育成」というスタンスではなく、「対話」を重ねることによって、若手エンジニアの意見も取り入れ、どのような業務をアサインすれば成長に繋がるかを考える。逆に若手エンジニアにとって成長に繋がらない作業を上位者が引き取る等して、若手エンジニアが成長できる業務に専念できる「前段」を整えるといった姿勢が求められるのではないだろうか。このようにすることで、若手エンジニアにも「意思決定に参画した」という認識を持ってもらうのである。実際に、私が実践した方法だ。

6.パワハラ被害者に成長を期待

【「やりがい搾取」の可能性があるアピール・要求・期待】

業務上のやりとりで、加害者から被害者へのパワハラが発生し、被害者が体調を崩した。パワハラが発生したこと自体は加害者の問題であり、加害者は被害者に謝罪した。しかし、加害者とは別の第三者が「被害者が加害者の意向を汲み取れなかった事に関しては、被害者の問題でもある」として、被害者に対する責任追及を行った。被害者は加害者の意向を汲み取ることができるだけの「視座」を持ってほしい、成長してほしい、というのが第三者の建前上の思いである。

【要求・期待を実現する上での「阻害要因」】

業務上のやりとりで、加害者の意向を被害者に汲み取ってもらえるよう、加害者が十分な説明をできていなかったことが問題である。更に、加害者の言い分を被害者に受け入れさせようと、力関係を背景としたパワハラに至ってしまった。このようなパワハラを受けている状況で、被害者が加害者の意向を汲み取れというのは無理難題であるし、この出来事を背景に第三者が「視座」を持ち出すのは、被害者への配慮を欠き、あまりにも話が飛躍している。

【解説】

パワハラ加害者に問題があることは当然として、第三者コンプライアンス上、重大な過ちを犯している。この第三者のように、パワハラ被害者に対して責任追及を行い、二次被害に遇わせることを「セカンドハラスメント」という。「セカンドハラスメント」は違法行為である。その他、被害者に対する「安全配慮義務違反」、パワハラに対する対応を適切に行わなかった「パワハラ防止法違反」にも触れている。
o08usyu7231.hatenablog.com
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もう少し補足しておく。第三者は被害者の成長を促すことを建前として(加害者の言い分を汲み取るための)「視座」というキーワードを出している。しかし、裏側では「組織内でパワハラの発生を揉み消したい。」「パワハラが発生したことのインパクトを弱めたい」意図から、被害者によるパワハラに関する訴えに対して、第三者はこれを軽視し、被害者の「視座」に関する話題に論点をすり替えることで、パワハラから話題を反らしている。第三者にとって都合の良い、被害者に対するマインドコントロールである。被害者はその証拠となる文面を保有している。

結果として、第三者の行為は被害者によって企業内のパワハラ相談窓口に(証拠の提出とともに)報告され、第三者は被害者からの社会的信頼の失墜を招いてしまった。

ここでの第三者の失敗は、(建前上)被害者の成長という面のみに着目し、パワハラが発生している状況を加味しなかったため、パワハラ対応における不誠実さが目立ってしまったことである。更に、このケースでは「やりがい搾取」に代わり、「パワハラの隠蔽」や「パワハラが発生したことに対するインパクトを低減する」という意図が見えてしまったことだろう。

ここで本来第三者が必要な対応は、被害者に対して成長を直接促すのではなく、被害者に対する心のケア、被害者からの信頼回復、そして被害者が成長するための「前段」を整えることである。つまり、パワハラという「阻害要因」を除去することに全力を注ぐべきなのである。その方が被害者にとっても、組織にとってもプラスになる。

まとめ

これまでいくつかの例を見てきたが、いずれも「阻害要因の除去」の必要性、重要性をお分かりいただけるだろう。「阻害要因の除去」を行わず、都合の良い点のアピールばかりでは、「やりがい搾取」「不正隠し」をはじめとするマインドコントロールは、早かれ遅かれ発覚に至り、信頼を失うことすらあるということを知っておくべきである。

この記事のタイトルの通り、組織の活性化や社員の成長に必要なことは、まず「阻害要因の除去」である。パワーでコントロールするのではなく。良いコーチングが必要だ。個人のためにも、組織のためにも。

逆に、「やりがい搾取」に遭っているかもしれない人、「不正隠し」をされているかもしれない人は、上司が理不尽だと感じる人は、「阻害要因の除去」に対する姿勢を見ることで、その相手の良し悪し、管理職への向き不向きを見極める手立てとなるだろう。

この記事が皆さんの役に立つことができれば幸いである。