「信頼関係」と「主従関係」、似ているようで全然違う。
「お客様の要求に応えて『信頼関係』を築こう!」などとよく言われる。この言葉を表面的に捉えれば間違いではないのだが、結論から言うと、Win-Winでない限りは「破綻」である。
頑張っても頑張っても報われないと考えている人や企業は、「主従関係」のことを「信頼関係」と言っているのではないだろうか? 心当たりがあれば、本記事を読んでほしい。
目次
1.「信頼関係」に関するよくある話
システム開発企業は、顧客や発注元からシステム開発を受注し、要求通りにシステムを作る。ソフトウェア制御仕様を要求元が提示し、ソフトウェア企業もしくはソフトウェア部門はその要求通りにソフトウェアを開発する。決められた納期までに。。。
お客様の要求を汲み取り、要求通りに実現するシステムを決められた納期までに提供することで、お客様から対価と信頼を勝ちとる。このようにして「信頼関係」を構築し、深めていく。
一見、正しいことを言っているように見える。聞こえも良い。部分的には正しいかもしれない。部分的に正しいと思える理由は、お客様にとって都合が良いからである。
しかし、何か違和感がある。違和感がある理由は、受注側の立場については全く言及されていない。お客様の要求を汲み取り、要求通りに実現するシステムを決められた納期までに提供さえすれば、受注側がブラック労働だろうと、どれだけ疲弊しようと、犠牲になろうとお客様には関係ないと読み取れてしまうからである。ただ、このようなマインドは限りなく危険であることはいうまでもない。
2.「主従関係」のことを「信頼関係」と言っていないか?
一方、システム・ソフトウェア開発規模や難度の割には、開発期間が短い。それでもお客様の要求に応え、信頼を勝ち取ろうとするために、エンジニア達は一生懸命頑張る。
この結果、長時間労働が多発しており社会的に問題になっている。そして周囲のエンジニア、古風なリーダー・管理職、力関係でねじ伏せようとする顧客・上層部等の要求元の存在により、長時間労働が当たり前になり、労働環境が悪化する。その末、システム完成が納期に間に合い、お客様から信頼を得ることも無いことは無いが、再びそのようなプロジェクトを受注し、同じような労働環境になりたいと思うだろうか?
劣悪な労働環境で、高難度、短納期、低コストでシステム開発に尽力し、苦労の末成功したとしても、次からはそれが当たり前になるケースがほとんどだ。
更に、要求元は要求がエスカレートし、強く要求し丸投げすれば何でもやってくれると思っていないだろうか?
いつの間にか、要求元と要求先に力関係が出来上がってしまい、双方ともが力関係ベースにプロジェクトを進め、開発現場のエンジニアが疲弊し、モチベーションを下げていないだろうか?
このような状態は要求元と良い「信頼関係」にあると言って良いだろうか?
顧客や要求元にの言いなりになり、都合良く使われている「主従関係」(あるいは「従属関係」)ではないだろうか?
「主従関係」のことを「信頼関係」と言っていないだろうか?
3.「主従関係」のことを「信頼関係」と言っている事例
実例の一つを挙げよう。昔から付き合いのある顧客企業・大手メーカーから、その企業が過去に構築した現行システムの解析・調査の依頼を受けた。そして、解析・調査としてのプロジェクトが立ち上がった。後々には新システムの再構築案件として受注予定だったが、実際どうなったかは知らない。
発注側は現行システムのソフトウェアと簡易の設計書を受注側に提示し、詳細解析をしたドキュメントを提出せよという丸投げ状態である。受注側からすると、今まで全く見たことがないシステムで、発注側企業にいる作成した人でないとわからないのではないかといったレベルのものである。
受注側の担当者はソフトウェア解析の経験を多く有するが、そのような技術者でも苦戦する程度のものだった。発注側の担当者は明らかにソフトウェア解析の難しさを知らないようだ。
o08usyu7231.hatenablog.com
そのプロジェクトの発注側と受注側の契約形態は準委任であり、一般的なイメージとしては発注側が達成したい現行システムの詳細解析を受注側の支援を得て行うものであるが、プロジェクト期間中に枝葉のような内容の調査依頼が増え、受注側の業務量が増え、毎月の成果物の提出が紙ベースでキングファイルに閉じて郵送せよという非効率な手段まで押し付けられる。
スケジュールが遅れ気味になると、顧客企業の担当者は上から目線でマウントする。受注側企業の現場レベルではモチベーションの低下に至るプロジェクトだ。
しかし、受注側企業の管理職クラスになると
「その顧客企業からは取引が長く、大きな信頼を得ている。技術力からして当社しか受注できない内容だ。」
と認識している。現場レベルからすると「本当にそうなのか」と思ってしまう。
その顧客企業向けプロジェクトの収益は良いのかもしれない。管理職にとっては良い顧客だったとしても、現場からするとその顧客のプロジェクトを担当したがる人はいないようだ。
「技術力からして当社しか受注できない」のではなくて
「まともな他社に相手にされないから当社に流れ込んできただけ」
ではないだろうか。現場レベルでは、そのようなうわさが流れている。実際その顧客企業からの開発案件は、長時間労働になりやすい。
これこそ「主従関係」を「信頼関係」と勘違いしている、即ち「主従関係」のことを「信頼関係」と言っている事例かもしれない。
4.Win-Winの関係こそが真の「信頼関係」である
受注側企業が発注側企業の言いなりになっているようでは、Win-Winの関係とは言えない。ただの「主従関係」である。
本来両社の立場は対等で、お互い調整し、協議し、最適な落としどころに持っていくことが求められるのだが、受注側企業の申し出が全く受け入れられない状態が続くようなら、そのような発注側企業との取引を避けたほうが良い。
そのような企業としか取引していないような受注側企業だと、従業員の不満も増し、優秀な人材が流出すると断言できる。
受注側企業も発注側企業に対して言うべきことは言うべきだし、受け身ではなく提案や是正依頼など発信すべきことはある。お互いが納得できる形へ着地させることが重要である。
そして、無理な要求は断ることだ。無理な要求を断ることは悪いことではない。無理な要求を受け入れることでお互い更に悪い結果とならないよう未然防止することも重要であり、これもまた「信頼」の一つだ。これが理解できない企業とは取引すべきではない。
一方が犠牲を強いられ、理不尽な状況を我慢しなければならない状況では、まともなビジネスなど成り立たない。「信頼関係」はWin-Winが基本だ。何をもって"Win"とするかは企業やプロジェクトによって異なる。売上なのか、利益なのか、関係構築なのか、技術蓄積なのか、・・・。
くれぐれも、「主従関係」のことを「信頼関係」と言わないようにしてもらいたい。Win-Winの関係こそが真の「信頼関係」である。Win-Win以外は全部破綻だ。
また、「主従関係」のことを「信頼関係」と言っている組織に属している人にとっては、都合よく使われているだけのことが多く、個人の成長が見込めない。
そのような人は、もっと良いキャリアを築き、成長し、未来を切り開くことを考えたほうが良いのではないだろうか。