ソフトウェアエンジニアが労働について情報発信するブログ

ブラック労働からホワイト労働まで経験したソフトウェアエンジニアが世の中にとって役立つことを情報発信していく。

システム開発の委託先の現場がブラック労働なら発注側としても気を遣う!人間である限りそれが正常な感覚だ!

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近年、製品・システム開発を1社のみで完結して行うケースは少なく、大規模なシステムとなると、必要な技術全てを自社が保有しているわけではないため、システムの一部をITベンダに発注することがある。このようなケースで残念なことは、プロジェクト全体の進捗、品質よりも、会社間の契約作業範囲、会社単位の売り上げ、受注活動のほうに着目しがちであり、これが原因で、プロジェクト全体に混乱が起きるということである。

自社の売り上げのため、無理な受注をして、システム開発現場がブラック労働になることはよくある。現場のエンジニアは、不安、不満の中、日々開発業務に尽力している。生活面を犠牲にし、健康面でリスクを負い、経済面でも十分かと言うとそうでない状況のなか、発注元はそんなこと関係なしに、高品質なシステムを短納期で要求してくる。

この記事では、上述のケースとは逆に発注先がブラック労働となってしまっているケースについて述べている。そのような状況下における筆者の心理面を述べるとともに、会社単位ではなく、会社間の垣根を超えたプロジェクト単位で、上位の視点から俯瞰して見ることの重要性について、特に『ブラック労働』の点に着目して述べたいと思う。決して他人事ではない。


1.システム開発経緯と開発委託先の選定

メーカーA社はある機器の開発、製造、販売を行っている。世間ではIoTの流れが加速しており、その機器に対してIoT対応として、スマホアプリと連携し、スマホアプリで機器の状態を確認したり、スマホアプリから機器の操作を可能としたりする大規模システム開発プロジェクトが立ち上がった。メーカーA社は、機器の開発経験は豊富であるものの、スマホアプリの開発経験がない。このため、スマホアプリの開発をITベンダーへ発注することにした。

ITベンダーを選定する段階において、3社が候補に挙がっていた。3社ともスマホアプリの開発経験はあるが、このうち2社はA社の予想を超える金額で見積りを出した。A社の提示する納期と開発規模が現実的でないとの判断であり、高額で受注するよりかは、受注を拒否したい意向であった。残りの1社であるX社は、受注に前向きであり、他の2社よりも安い見積りを出した。そしてA社は、大規模システムを予定通りにリリースするには、スマホアプリの開発委託先にX社を選定するしかなかった。そして、A社はスマホアプリの開発をX社に発注した。A社がX社に発注したのは、このプロジェクトが初めてである。

X社は、昔IT業界の中でもブラック企業と言われていた。ブラック企業ランキングというものがあるが、このランキングでも比較的上位に位置するベンダー企業である。ただ、昔と違って最近は良くなってきているとの情報もある。X社に発注したとき、A社内で委託先選定に直接関与しなかった人たちの間では、


「えっ!X社!」
「なぜ、X社なの!」

という声があったようだ。

2.開発委託先の成果物における品質問題

大規模プロダクト開発が開始し、A社はX社に全面的に協力した。仕様書(特にシステム構成図やデータフロー等、システムの振る舞いが視覚的にわかる資料)の提供と説明、定例打ち合わせによるプロジェクト進捗状況の共有、開発環境の貸出と説明等である。開発序盤からA社社員も多忙で、X社にとって開発が円滑に進捗するよう尽力した。

しかし、開発中盤から終盤にかけて、X社からのスマホアプリにおけるソフトウェアの品質が悪く、バグが多発している状況である。なかには、どう考えてもまともに動作していないだろうと思われる不具合も少なくない。例えば、動作が重い、明らかに表示がおかしい、普通に使っていて違和感があるといった感じである。

A社内でバグが発生しても、X社内ではバグか再現しないものもあった。X社のバグの原因究明に調査には、A社も全面的に協力した。例えば、A社で異常な動作が発生したときの通信ログを取って、X社に送付するといった感じである。このようなことから、A社の開発進捗にも大きく影響を与えており、プロジェクト全体の混乱にも繋がっている。

また、X社は徹夜で動作確認をしているという情報もA社に入ってきた。このような状況で良いプロダクトを作れるわけがない。

3.開発終了時点における開発委託元の見解

開発を完了して、A社のプロジェクト責任者は次のようにコメントしている。


「X社の開発力が低い。」
「当社はX社に対して、かなり協力した。無理な要求などはしていない。それどころかX社に対する工数がかなり裂かれている。」
「X社のプロジェクトマネージャが、システムの規模や難度をわかっておらず、今後のためにも無理して受注した感じがある。X社のプロジェクトマネージャや上層部の責任。」
「X社以外のベンダーは、見積り金額やスケジュールが現実的でない。受注を拒否するかのような見積りだ。」
「やはり、ブラックと言われていただけあって『安かろう悪かろう』だ。」
「他の2社の高すぎる見積りのほうが、実はまともだったのかも知れない。」

ここまでを振り返る。

A社にとって新たな技術領域であるIoTを構築するために、これまで経験のないスマホアプリの開発を新規にベンダーへ依頼する状況で、3社中2社からはA社にとって高すぎる見積りを提示され、残り1社は安い見積りを出してきたため、元々ブラック企業と言われてきたことを知りながらもこの1社に発注するしかないという状況だ。さらに、X社も「今後のために、何としてでも受注する」という前向きな姿勢であり、X社のプロジェクトマネージャが上層部から圧力を受けていたのか、悲惨な開発になることを予見できていながらも、開発を進めなければならなかったという状況だ。そして、A社はX社に全面的に協力はしたものの、やはりX社プロジェクトマネージャの力及ばずだったのかも知れない。

4.やはりブラック労働をなくすことが最優先だ!

まず認識しておかなければならないのは、ブラック労働で良いプロダクトはできないということだ。「そんなことはわかっている」、「世間では当たり前のこと」と知りながらも、いざ当事者になると、「そのようなことを言っている場合ではない」などと、目の前のことしか見えず、「ブラック労働問題」という社会目線を失う。ブラック労働に巻き込まれた人達は、純粋に気の毒である。まれに


「発注先のこと(労働環境等)はウチの知ったことではない」
「委託先企業は、納期・品質・コストさえ守ってくれたら、あとは何でも良い」

という、非常識なことを言う人間もいるが、私はこれに全く賛同できない。社内の人間であれ、取引先の人間であれ、同じ人間だし、取引先は同じプロジェクトに取り組んでいる協力者だ。そう考えるのが正常な人間だ。特にコンプライアンスが厳しくなっている現代においてはなおさらである。

ブラック労働が社会でここまで問題とされているにも関わらず、長時間労働をはじめとするブラック労働はなくならない。個人やイチ現場、イチ企業の頑張りだけでは簡単に実現できるものではなく、多岐にわたる要因が複雑に絡み合っていることは容易に予測がつく。

A社のプロジェクト責任者は前章に記載の通り、X社の問題点を述べている。しかし、このようなブラック労働を起こさないためにはどうすれば良かったのか? X社にも、A社にも反省点はある。

X社の反省点については、概ねA社のプロジェクト責任者がコメントしている通りである。プロジェクトの円滑な進捗よりも、受注のほうに力を入れている感じであり、これが結果的にX社社内のエンジニアにとって圧力となり、力技や犠牲の上に成り立つ形となってしまった。非常にお気の毒である。

続いてA社である。X社に全面的に協力したことについては良好である。「無理な要求をしていない」というのは本当かどうか疑ってしまう。個々の作業のタスクレベルでは、無理な要求をしていないのだろうが、やはりX社以外の2社が高額な見積りを出したところを考慮すると、大元の開発スケジュールに無理があったのではないかと思われる。

A社としては、3社中2社が高額見積りを提示し、残りの1社がブラック企業と言われていたところを見ると、ベンダー選定の段階で「実は高額見積りを提示した2社のほうが現実的ではないか!」ということに気付くことができたのではないかと考える。更に、見積りを依頼する発注先候補を増やして同じ結果になれば、前述の内容がなおさら当てはまるのではないかと考える。仮にX社が受注しなかったら、A社は必然的に発注先候補を増やさざるを得なかったか、A社が当初想定しているスケジュール感が全く現実的ではなかったことに開発前から気付くこととなったかも知れない。

あと、このプロジェクトにスマホアプリの対応が困難とわかれば、その次の製品への搭載をターゲットとすることも視野に入れるべきではなかっただろうか?

取引先をブラック労働にする要因は、発注者側にもある。A社のようにプロダクトを世に出すメーカーとしては、機器、スマホアプリ含めた、プロダクト全体において、A社のブランドとなり、問題が起きれば市場に対してはA社の責任と公表する立場にある。X社は受託開発であるが、A社は自社プロダクトの開発であることを重々認識しなければならない。

私は、ある企業で自動車のECU(電子制御ユニット)の開発に携わったことがあるが、お客様である自動車メーカから、


「〇〇のプロジェクトと、△△のプロジェクトとどちらもピークを迎えお忙しい中ではありますが、作業負荷は大丈夫ですか?」

と心配の声をいただいたことがある。人間としての心遣いがGOODであると感じたのを今でも覚えている。
o08usyu7231.hatenablog.com
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