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パワハラ事例解説(27) - パワハラ被害の訴えと是正要求に対して追加のパワハラ

このシリーズの記事では、パワハラの定義と類型、私の身近に起きたグレーゾーンを含む事例について、定義と類型をもとに解説している。内容によっては考え方や改善策についても述べているので参考にしてほしい。

自分が加害者にならないように注意することをはじめ、被害に遭いそうな場合はいち早く予兆に気付くことが求められる。

目次


【最初に】パワハラの定義と6つの類型

パワハラはご存知の通り「パワーハラスメント」の略であり、権力や地位を利用した嫌がらせという意味である。2001年に株式会社クオレ・シー・キューブによる造語である。ただ、その定義は曖昧で指導との区別が困難である現実を抱えていた。2020年6月にパワハラ防止法が適用され(中小企業は2022年4月より適用)、同時に厚生労働省による定義が明確になった。

パワハラの定義とは、

職場において行われる

  • ①優越的な関係を背景とした言動であって、
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • ③労働者の就業環境が害されるものであり、

①から③までの3つの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

続いて、パワハラの6類型(パターン)を項目だけ紹介しておく。

  • (1)身体的な攻撃
  • (2)精神的な攻撃
  • (3)人間関係からの切り離し
  • (4)過大な要求
  • (5)過小な要求
  • (6)個の侵害

詳しくはこちらを見てほしい。
www.no-harassment.mhlw.go.jp

ニュースで取り上げられているものや、裁判になったものは組織内で解決できなかった手遅れ案件である。また、世間の目も段々厳しくなってきており、損害賠償の相場も数百万単位(被害者が死亡の場合は数千万単位)に上がってきているという情報もある。いくら正論であっても、相手が嫌がるやり方であれば、法律に触れることになる。

ただでさえニュースで見ることが多くなってきているのだが、これらは氷山の一角であり、水面下には程度の大小を問わずさらに多くの案件が潜んでいる。上述の定義や類型を基に、私が実際に見たことがある事例を紹介し、定義や類型を元に解説する。程度や被害の大小は様々である。

  • グレーゾーンであるもの、パワハラと断言できないもの
  • 「こんなのがパワハラになるのか?」というもの
  • 出来事が起きた当時はあまり意識しなかったものの今考えると「あのときのあの出来事はもしかするとパワハラにあたるのでは?自分も加害者にならないように気を付けよう。」と思ったもの

いずれにしても、加害者側に問題があり是正が必要であることは間違いなく言えるので、立場関係なく参考にしていただきたい。その上でパワハラの予兆を見極め、未然防止に繋げることが重要てある。

★関連リンク
o08usyu7231.hatenablog.com
o08usyu7231.hatenablog.com
★事例一覧はこちら↓
o08usyu7231.hatenablog.com

【事例27】パワハラ被害の訴えと是正要求に対して追加のパワハラ

パワハラは社内で発生するだけでも大きな問題であるが、取引先の従業員に対して行われるパワハラは更に深刻だ。
o08usyu7231.hatenablog.com

まず、登場人物を整理する。

X社:システム開発企業。
Y社:X社の取引先で、商品開発・製造・生産を行う。
A氏:パワハラ被害者。X社のチームリーダー。
B氏:パワハラ加害者。Y社の管理職。
C氏:パワハラ発生時の、被害者A氏の上司。X社のマネージャ。

システム開発を行っているX社のA氏はチームのリーダーを担当している。Y社はX社の取引先で、商品開発・製造・生産を行っており、管理職のB氏が組織を統括している。

X社A氏の部門で設計したソフトウェアが原因でシステムの品質問題が発生した。品質問題対応の中で、B氏は終始A氏に対して高圧的で、A氏はB氏のパワハラを原因として、体調を壊してしまった。早急な対応で大事には至らず、1日休養したのみで済んだ。

以降、B氏の対応はA氏の上司であるマネージャC氏が行った。

X社とY社はロケーションが離れていたためA氏とB氏、C氏とB氏のやりとりは、電話、メールがメインであった。ここまでの詳細は前回の記事を参照いただきたい。

o08usyu7231.hatenablog.com

この記事で述べるのはこの続きの話だ。

1.まずはパワハラの定義や類似事例について被害者自身が調べる

厚生労働省の調査によると、パワハラ被害者のうち約4割が「何も行動を起こさない」という結果が出ている。被害者の多くは、ここで泣き寝入りしてしまうのではないだろうか?

しかし、A氏は違った。A氏はB氏の振る舞いにどうしても納得がいかなかった。当たり前である。

A氏は、B氏の行為はパワハラに当たる可能性があるのではないかと考え、パワハラの定義やパワハラ事例を調べた。平日の業務時間外や休日もとにかく調べた。この当時は、パワハラの定義が曖昧であり、A氏はB氏の行為がパワハラだと断言することを躊躇していた。それでも

  • パワハラに発展する恐れがある
  • 何もしなければ将来また同じことが起きる
  • B氏が原因で体調と業務パフォーマンスに影響した
  • 今回の件だけでも加害者B氏を許容することができない

と判断し、B氏に対して直接クレームすることにした。

A氏がB氏からパワハラを受けたことは、A氏の上司であるC氏や、周囲のメンバは知らない。A氏は話を大きくすることを避けるために、最小限の人数で解決することが狙いだった。

2.パワハラ被害者が勇気を出して加害者にクレームする

前述のとおり、X社の品質問題に対してA氏が懸命に取り組むもB氏は高圧的で、A氏の説明を理解せず途中で話をぶった切り、罵倒し、A氏が健康被害を受けた旨のクレームと、B氏が是正すべき旨を要求するメール文面をA氏からB氏に対して送信した。

【被害者A氏から加害者B氏への送信内容概要】

  • 「私(A氏)に対して高圧的であった。C氏への対応とは全く異なる。なぜここまで差が出るのか?」
  • 「『品質問題』についてメカニズムを説明するも、話を途中でぶった切るなど、聞き手としてのマナーに問題がみられる」
  • 「説明内容が理解されないのみならず、罵倒され、大変心が痛む。」
  • 「体調の異変に気付き、あの翌日発熱し、1日休暇した。一歩間違えれば大きな『労働問題』。」
  • 「今後、このようなことが二度と無いよう是正していただきたい。」

すると、B氏からA氏へ返信があった。

【加害者B氏から被害者A氏への送信内容概要】

  • 「言い方は悪かった。」
  • 「品質対応の方法については、Y社として意図があった。」

この後、B氏から(被害者A氏の上司である)C氏へ次の内容をメール送信したが、これがB氏による宛先設定を誤り、被害者A氏のところへ届いてしまった。

【加害者B氏から被害者の上司C氏へ送信するはずだったが被害者A氏に誤送信した内容】

  • 「貴社のA氏から、〇〇(転送メール)のようなメールが届きました。」
  • 「今回の件は許しがたいですが水に流します。A氏への教育のほどお願いいたします。」

これを受けたA氏は、B氏に対して宛先誤りであることのみを伝え、内容には触れることなく辛抱した。B氏はこの時点でかなり動揺していたものと思われる。B氏は更にA氏へ下記の内容を送信した。これが火に油を注ぐ結果となった。

【加害者B氏から被害者A氏への送信内容概要】

  • 「宛先誤り失礼しました。この際にA氏へ言っておきたい。」
  • 「Y社内でもこの『品質問題』を発見できなかったことで、他部門に多大な迷惑をかけている。他部門から圧力を受けている。」
  • 「『品質問題』を出している状況で、『ストレス』とか『労災』とか、そのようなことを言っても良いと思っているのか!」
  • 「体調不良なら他の人へ交代するなどX社の組織内で解決し、他部門に迷惑をかけないことを最優先すべきではないのか!」
  • 「〇〇(A氏)はチームリーダーとしてまだまだ不慣れであるのは仕方ないが、甘ったるいことは言うな!」

A氏にとって、B氏のこの内容は許せるものではなかった。B氏としては、当初「言い方」の悪さについては言及したものの、『品質問題』で迷惑を受け、その対応についての厳しさを、どうしても被害者A氏へ伝えたかったようだ。しかし、これが裏目に出た。パワハラ被害者A氏から見れば、『労働問題』による健康被害を受けたにもかかわらず、B氏から追加でパワハラを受けるという、あり得ない状況を間に当たりにしたのだ。

3.最終的にはパワハラ加害者が被害者に謝罪することに

A氏は先程の返信を受け、更に被害者としての言い分を加えて返信した。

【被害者A氏から加害者B氏への送信内容概要】

  • 「当社(X社)が発生させた『品質問題』により、多々迷惑をかけている。そのことは重々承知している。」
  • 「私が言いたいのはさらにその先である。『品質問題』と『労働問題』は全く別物である。」
  • 「『健康被害』や『パワハラ』はもってのほかである。『品質問題』およびその説明などの対応が『パワハラ』をしても良い理由にはならない。」
  • 「『パワハラ』による『健康被害』という、人身に影響を与えたことをさらに重くとらえるべき。」
  • 「『(リーダーだから)甘ったるいことは言うな!』ではなく、上位者が『労働問題』や『ハラスメント』を理解していないことが致命的な問題である。ブラック企業によく見られる根性論は通用しない。」

B氏は上記に対して、翌日次のように返信した。

【加害者B氏から被害者A氏への送信内容概要】

  • 「A氏の考えを理解した。A氏の言うことが正しいと思う。」

B氏は自分自身の言動がパワハラである可能性に気付いたためか、それまでとはがらりと様子が変わった。逆に被害者A氏が『労働問題』に関して言い返しようのない正論を主張し続け、かえってB氏を追い詰めてしまったようだ。

最終的にB氏がA氏に謝罪した。被害者A氏が声を挙げたことで最小人数で自力解決に至った。A氏はB氏から謝罪を受けたことと、この話を大きくしたくない意向があることを理由に、当時この件をパワハラ相談窓口に報告することまではしなかった。

A氏とB氏のやりとりは後に、被害者A氏の上司であるC氏にも共有されることになる。この件に関するC氏の対応については、別記事で述べることにする。

4.パワハラ加害者の発言・マインドに関する問題点、被害者の行動について解説する

システムの『品質問題』を発生させてしまったこと自体はX社の問題であるが、その解決や対応についてはX社とY社は協力関係でなければいけない。A氏、B氏、そしてC氏についても同様に互いが歩み寄り、協力して進めるべきだ。『品質問題』が背景にあるとはいえ、『パワハラ』の発生はもってのほかだ。

B氏はソフトウェア発注側組織の管理職という立場上の力関係を背景に(①)、後述する通り、業務に必要相当な範囲を超えた言動(②)が散見され、『健康被害』を受けたA氏を更に追い込むという就業環境を悪化(③)を招いた。よってパワハラの定義を満たしている。パワハラ6類型では、(2)精神的な攻撃に分類される。

加害者B氏の発言内容について、何が問題なのか一つずつ述べていく。

  • 「今回の件は許しがたいですが水に流します。A氏への教育のほどお願いいたします。」

「許しがたい」という言葉は被害者の口から出るのが自然であり、加害者の口から出るところがすでにおかしいと断言できる。「水に流します」としているが、パワハラ加害者であることの自覚が全く感じられない発言である。パワハラがなくならない原因の一つは、加害者の無自覚にある。決して水に流してはいけない、重く捉えるべき内容であると同時に、教育を受けるべきなのは加害者のほうである。

  • 「宛先誤り失礼しました。この際にA氏へ言っておきたい。」

問題は宛先誤りではなく、未だに被害者A氏に問題があり、教育が必要だというマインドを持ち続けていることだ。宛先誤りをきっかけに開き直り、加害者から被害者へ「この際どさくさに紛れて言ってやれ!」という意図さえ感じる。

  • 「Y社内でもこの『品質問題』を発見できなかったことで、他部門に多大な迷惑をかけている。他部門から圧力を受けている。」

この内容自体は正しい。しかし、これはパワハラをしても良い理由にはならない。B氏がA氏からクレームを受けているのはパワハラに対してである。また、被害者A氏も『品質問題』の重大さをわかっているし、だからこそ迅速で懸命な対応だったのだ。その最中にA氏はパワハラ被害に遭ってしまったのだ。

  • 「『品質問題』を出している状況で、『ストレス』とか『労災』とか、そのようなことを言っても良いと思っているのか!」

これは、被害者A氏の発言にもあった通り、『品質問題』と『労働問題』は全く別物であり、『品質問題』を理由に『労働問題』を黙らせて良いわけではない。とくに『労災』を黙らせるということは、『労災隠し』という犯罪行為に当たるため絶対にあってはいけない。(労働安全衛生法 第100条、第120条)

  • 「体調不良なら他の人へ交代するなどX社の組織内で解決し、他部門に迷惑をかけないことを最優先すべきではないのか!」

これは一見正しそうに見えるが、パワハラ加害者が被害者に向かって言うのは正気の沙汰ではない。業務と関係ない内容での病気や体調不良では、これによる周囲への迷惑を最小限に抑えるべきというのはわかる。しかし、このケースではパワハラ加害者の行為が元凶であり、パワハラ加害者が改めるべきことである。パワハラ加害者が被害者に迷惑をかけている状況で、被害者に対して迷惑をかけるななどというのはお門違いである。

パワハラ被害者を他の人に交代させても、パワハラ加害者が改めなければ、また交代した人を潰す結果になりかねない。社員は使い捨てや消耗品ではないことを意識し、根本原因であるパワハラ加害者が改めるべきである。

更に、『人身』に影響を出していることへの認識が薄いことが問題である。パワハラ加害者の言い分は、交通事故に例えると、『人身』より『物損』を優先しているようなものである。あり得ない対応である。

  • 「〇〇(A氏)はチームリーダーとしてまだまだ不慣れであるのは仕方ないが、甘ったるいことは言うな!」

「リーダーとして慣れていない」とか、このようなことは全く関係なく、問題は加害者の振る舞いだ。また、「甘ったるいことは言うな!」というのも業務上必要のない根性論を押し付けるパワハラ発言である。加害者が被害者に向かって言うことではない。


私は、被害者A氏の行動は社会的優良事例であると考えている。世の中で起きる多くのパワハラ問題は、被害者が二次被害を受けることを懸念し泣き寝入りするか、社外の相談窓口や労働局やメディアに告発されニュース報道されるかのどちらかであると感じている。これのどちらにも当てはまらず最小人数で自力解決したことが素晴らしい。「会社対会社」という関係以前に「人間対人間」としての在り方に着目した、視座の高さがわかる一例だ。

一方、被害者A氏としてはまず上司に相談するなど、他の解決方法もあったのではないかと思われる。ただ、ここは非常に難しい。パワハラの相談相手は慎重に選ばなければいけない。パワハラの相談を受ける人は相当高いスキルが求められる。自組織の上司は、ほとんどの場合ハラスメントの専門家でないことの方が多い。被害者A氏としては「加害者のプライバシー」「最小人数で解決する」という思いが、この選択肢を採らなかった理由になるだろう。一般的に言われていることは、パワハラは組織で解決・対策していくということである。組織はパワハラに対して対策を取る義務がある。

【最後に】パワハラにおける考え方・まとめ

パワハラは加害者が未熟であることによって発生する。パワハラに関して被害者には非はない。被害者に改めるべき部分があると思えば、改めることは素晴らしいことである。しかし、パワハラを受けたことに対する責任まで取る必要はない

一方、パワハラ加害者は重い軽いいずれにしてもそれなりの処分と教育を受け、更正してほしい。パワハラの加害者を絶対に昇格させてはいけない。降格するくらいを当たり前にしてほしい。

パワハラ加害者となる可能性が高いリーダー、管理職には、パワハラの重大さを知ったうえで、チーム・組織で成果を最大化するために必要なことを学んでほしい。私は様々なリーダー、管理職を見てきた。技術や能力が高いベテラン社員はある程度いる。しかし、いくら能力が高くてもパワハラ気質なベテラン社員は、管理職にふさわしくないと判断している。組織のメンバーのパフォーマンスの最大化の妨げとなっているからである。チーム・組織で成果を最大化するためにパワハラはいらない。

そして被害者はパワハラを受けた状況にもかかわらず業務において一定のアウトプットを出しているなら、優秀な人材であると考えて良さそうだ。

パワハラがいけないことであるということは皆知っている。しかし、何がパワハラに当たるか、パワハラが発生したときにどのような影響が出るかを理解していないのではないだろうか。パワハラに関する研修や教育は行われているが、最悪命に関わるということを教えていないのではないだろうか。

本来被害者側に要求しなければならないことは社会的に非常に残念ではあり、理不尽ではあるが、パワハラ被害に遭う前から、転職、起業、フリーランス、副業など準備を進めておくことが、被害者個人でできる対策だろう。それくらい日本のハラスメント対策は国際的に見ても遅れている。