日本は少子高齢化により労働人口が減少し、多くの企業が人手不足に悩まされている。IT業界も長年にわたって技術者不足と言われている。
私は昔属していた、下請けを中心としたIT企業で、技術者不足と過重労働に見舞われた末、「体調不良でドクターストップを受けたメンバに対して業務の引き継ぎのために出社させる」という、とんでもない管理職を見たので、その異常さについて語りたいと思う。
ブラック企業では、
- 「体調不良でも普通に出社し、業務をこなしていた。」
- 「血尿が出て一人前。」
- 「体調不良という概念はない。」
- 「入院先の病院にパソコンを持ってきた人がいた。」
など、まだまだ酷いエピソードがネット上で語られていたりするのだが、本記事のような「業務の引継ぎを優先する」という時点で、ブラックの底辺であることを見抜くべきと警笛を鳴らしたい。
労働者それぞれの人生を潰さないために、このような情報発信が必要だ。
この記事では、過重労働が常態化している職場において、体調不良でドクターストップを受けたメンバに対して業務の引き継ぎのために出社させる管理職とは関わりを避けるべきということに事例を含めて、語りたいと思う。
1.過重労働が常態化している時点で既に破綻している
IT業界に限らないが、そもそも過重労働が常態化しているということは、下記の状態にあることが多い。
- 処理しきれない業務量を必要とする無理なプロジェクトや案件を要求され、受注している。
- 必要とする業務量に対して、リソースが不足しているにも関わらず、業務量を減らすか、リソースを増やすか、スケジュールを延期する等の調整ができていない。
- そのしわ寄せが末端の従業員に押し寄せ、従業員の健康面、生活面における犠牲の上に業務が成り立っている不健全な構造である。
状況に対して、経営陣や管理職が何も手を打っていない結果なのである。
労働基準法では、1日8時間までと決められており、本来これが労働時間上限である。1日8時間の業務で会社か難なく回り、従業員の生活が成り立たなければ、そもそもその時点で会社が破綻しているという厳しい意見を持った人もいる。厳しいどころかこれが普通だ。
その破綻した会社を、従業員の犠牲的労働によって賄われており、救われているだけなのである。その意味では、「ブラック企業」のことを「ゾンビ企業」(本来既に死んでいるはずだが、まださまよい続けているという意味)と呼ぶこともある。
また、使用者と労働者が締結する「36協定」という例外的扱いもあるが、残業削減に取り組んでいる健全な企業のうちの一社は「36協定は逃げ道でしかない」とセミナー等で公言している。その通りだ。
このような状況を放置している管理職は要注意だ。
2.管理職が原因で複数の社員が体調不良に至り、退職してしまった!
私がかつて所属していたIT企業のあるプロジェクトでは、過重労働が蔓延しており、そのプロジェクトには時々ストレスで胃の調子が悪くなるメンバA氏がいた。
A氏は、このプロジェクトのリーダーを努めていた。A氏は過重労働を理由に、上司である管理職B氏に退職を願い出たが、プロジェクトの状況が状況であるため、頑張ってほしいとB氏から引き留めに遭った。
A氏が頑張り続けるうちに体調が悪化し、限界に達して病院に行ったところ、2週間休業するようにドクターストップがかかった。
その後、ドクターストップにより休業しなければならない期間の1日を引き継ぎのために出社してほしいと、B氏からA氏に依頼があった。A氏は出社し、業務の引き継ぎを行った。
次に、このプロジェクトメンバであった私に無理が祟り、体調不良になった。時期が真夏であり、いつも以上に汗をかき、のどが渇き、夜は眠れず、発熱が続き、うつ病のような症状であり、これまで経験したことのないメンタルトラブルである。
私は管理職B氏に体調不良を訴えたが、最初は軽視され、耐え続けた。そして発熱が続き、悪化し、限界に達したところで、B氏から引き継ぎの指示があった。
私は引き継ぎすらまともにできない状況であるほど、体調が悪化しているにも関わらず、B氏は私に対して、
「A氏はしっかり引き継ぎをやってから休んだ!」
と言い放った。私はフラフラの状態で引き継ぎを行い、早退した。丁度、一週間程度の夏休み直前のことであり、私は夏休みの全てを休養に費やすこととなった。私の場合は、異変に気付くのが早かったため、数週間や数カ月の休業・休職までには至らなかった。
今思えば、健康面より大事な仕事はない。A氏にしてもなぜ、ドクターストップがかかるほどにまで、仕事をしてしまうのか? 第三者から見れば明らかにおかしいことなのに、なぜ本人は気付かないのか? 管理職B氏は、健康面を損なうのは自分自身でないからと他人事のように考えているようだ。
A氏は、ドクターストップによる2週間の休業の後、職場に復帰し、担当プロジェクトも変わったが、その後も半年程休職した末、退職した。
私は、上記の体調不良から数年後に、このIT企業を退職し、大手メーカーへ転職した。退職理由は多すぎる程あるが、このメンタルトラブルや管理職の未熟さがその理由の一つだ。また、「ドクターストップを受けたメンバが引継ぎのために出社しなければならないほど余裕のないリソースで業務を進めている」という「前段」が既に破綻していると考えて良い。
o08usyu7231.hatenablog.com
3.社員の健康への配慮よりも、業務の引継ぎが優先という異常さがまかり通る「安全配慮義務違反」
先程の事例からわかるように、そもそも余裕のない人員で業務を回している管理職にこそ問題があるのだが、これによって休養、休職、後に退職という形で犠牲となったのは、中堅社員2人である。
このIT企業では、退職者が毎年発生しており、社員数や平均年齢の推移を見ると、違和感を感じる。管理職B氏の管轄組織内でも次々と退職者を出している状況だ。
管理職B氏は技術力があり、長時間労働を乗り越え、この企業内で実績を挙げてきている。しかし、管理職としては、A氏に対する対応を見てのとおり、
- 過重労働が改善されない状況での退職の引き留め
- ドクターストップという異常事態でも業務引き継ぎを理由に出社させる
という異常さだ。
社員の健康への配慮よりも業務・業績が優先という姿勢がまかり通ることと、これを誰も指摘しないところが、コンプライアンス的に異常だ。
企業が従業員に対して果たさなくてはならない義務のひとつに、「安全配慮義務」がある。「安全配慮義務」は労働契約法第5条で定められている。
労働契約法 第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
具体的な対策については、職種、業種、企業によってそれぞれ考え、実施しなければならない。
「安全配慮義務」とは、企業や組織が従業員の健康と安全に配慮する義務のことである。「企業は従業員が常に安全で働きやすい環境で仕事できるよう配慮しなくてはならない」ということが定められている。企業や組織が安全配慮義務を負うべき従業員の範囲についても、法律で定められている。違反した場合には損害賠償請求を受けるのリスクがある。企業の健全な運営に欠かせない知識だ。
A氏から退職の申し出があったにも関わらず、B氏はプロジェクトの忙しさを理由にこれを受け入れず、ドクターストップを受けるまでA氏を過重に労働させただけでも大問題であるのだが、更にドクターストップを受けた後も、いつA氏が再起不能に陥ってもおかしくないくらいのリスクを抱える状況で、業務の引継ぎを理由にA氏を出社させる行為は、「安全配慮義務違反」にあたり、管理職にあるまじき行為である。
私も、このような事例を目の当たりにしたことが、自分の異変に早く気付いた理由の一つかもしれない。私もこの管理職B氏の至らなさにより、A氏と比べると被害は小さいものの、キャリア上初めてで最も大きな被害を受けたのである。転職して正解である。
B氏は私が退職してから数年後に、管理職から役員に昇格している。組織自体の異常さを表している。被害を受けないためにはかかわりを避けるべきだ。転職して尚更正解である。
4.異常な指示・要求を達成してもメリットがないどころか「前例」として残る害悪
このような状況の中で、管理職B氏の期待に添い、尽力したところで、評価されることはなく、都合よく使われ続けるだけである。ここに気づいた人が退職していく。A氏も体調面以外にも、このような理由で退職を検討し、実際に退職したのだろう。
更に害悪なのは、このような状況で異常な指示・要求を達成してもメリットがないどころか「前例」として残ることである。
今回の事例で言えば、A氏はドクターストップを受けたにも関わらず、B氏からの指示で業務引継ぎのため出社し、引継ぎを行った。これが悪い意味での「前例」となり、管理職B氏は私に対して、
「A氏はしっかり引き継ぎをやってから休んだ!」
と言い放ち、私もフラフラのなかで業務引継ぎを行ったのだ。危険極まりない指示であり、二重三重の「安全配慮義務違反」である。
それでも、「前例」を盾に、「業務」や「責任」を盾に使い潰そうとする。並びに「安全配慮義務」を果たす「責任」は、どこかへ行ってしまっている。
社員は会社にとっての使い捨てのパーツでもないし、消耗品でもない。一般の人なら誰でもわかることなのだが、実際に管理職がこのようなことを(意図的ではないにしても)やってしまっている。だから、自分を大切にし、このような管理職との関わりを避けるべきなのである。
残念ながらまだまだ世の中にはブラック企業が多い。一方、働き方は以前と比較して多様化している。スキルを付けるのみならず、自分のキャリアを見つめなおし、視野を広げ、いざというときに備えなければならない時代になったといえる。