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プロジェクトマネージャー試験と現実世界の違い

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情報処理技術者試験の区分の一つにプロジェクトマネージャー試験は人気が高い。また、プロジェクトマネージャに必要な知識はライフサイクルが長い。しかし、資格を取得したからといってすぐに実践で使えるかというと、現実世界での難しさというのがある。「試験で求められる解答と現実世界に求められるスキルは違う」ということだ。


1.プロジェクトマネージャー試験とは

システム開発に携わっている人は、システム開発におけるプロジェクトマネジメントを勉強することが有効である。IPAが主催する情報処理技術者試験の区分の一つにプロジェクトマネージャー試験がある。私はもう10年以上前に合格しているが、合格率が10%前後の難関国家試験である。これに合格することを目標に勉強することはスキルアップにつながる一つの手段だろう。

しかし覚えておかないといけないのは、試験の対策と現実の世界とは違う部分があるということである。

システム開発において、プロジェクトマネージャーは限られたリソース(開発要員・開発期間・予算)のもとで、品質・スケジュールを守り、要求された成果物の完成に向けてやりくりしなければならない。またプロジェクト期間内に仕様追加や仕様変更要求がある。これに対してもプロジェクト全体への影響を考慮しながら、関連部門と調整し、対応しなければならない。参考書などにはハードルの高いことばかりが書かれている。

プロジェクトマネージャ試験は、多岐選択式である午前(午前Ⅰ、午前Ⅱ)問題、記述式の午後Ⅰ問題、論述式の午後Ⅱ問題からなる。特に記述式の午後Ⅰ問題では、問題文を読むと様々な制約条件があり、設問に対する回答を一意に絞られるように問題が作り込まれている。この制約の中で、プロジェクト成功に向けて、成果物完成に向けて、プロジェクトマネージャーの腕が試されるような設問が用意されている。例えば新しいシステムの稼働開始日は既に決まっており、システムの完成納期は後ろにずらせない、なおかつプロジェクト途中で追加要求が発生した、このような状況の中で、品質を落とさず完成させるにはどのようなことが考えられるだろうか。試験の解答として求められるものは、要員の増員、スケジュールの組み替え、テスト期間の短縮、このようなものが考えられる。しかしここから設問の解答を一意に絞る ためにさらに色々と制約条件が付けられるのである。
www.jitec.ipa.go.jp

2.プロジェクトマネージャー試験と異なる現実の世界

しかし現実の世界はどうだろうか。先ほどの例にあるような制約条件を付けられると実に理不尽である。開発規模と期間、難易度、変更要求によるプロジェクトへの影響が多大な場合、その程度次第ではどれだけスキルがあろうと実現不可能なレベルはある。プロジェクトマネージャー試験の解答にはなり得ない選択肢も時には必要かもしれない。

現実の世界でもプロジェクトマネージャー試験の知識が役に立つこともある一方で、要求元から理不尽な要求に対してプロジェクトマネージャー試験のシナリオと同じように対応すると、無理が祟り限界に至る可能性があることに気づかなければいけない。

プロジェクトさえ成功すればそれ以外はどうでもよいというのではなく、プロジェクトメンバーとの関係性が崩れると、優秀な人材が離脱していくリスクがある。現実によくある話である。

明らかに失敗するプロジェクトでも、納期厳守を押し付けられ、断ることができずに飲み込んでしまう。そしてプロジェクトメンバーに多大な負荷をかけ、スケジュールの遅延、品質低下、プロジェクトメンバーの過重労働・・・。プロジェクトのメンバーに非がなくてもプロジェクトメンバーは健康被害を受けるリスクはある。プロジェクトマネージャー自身も同じだ。このようにしてプロジェクトは破綻に向かってしまう。

そもそも要件定義確定の遅れやプロジェクト作業中の機能追加であれば、現実的にはスコープを絞るか、完成予定時期を見直さなければいけない。プロジェクト期間内に調整できる範囲であれば良いが、そうでない場合は大元を見直さなければならない。場合によっては、断ることも必要である。これがプロジェクトマネージャー試験では必要ないスキルであったとしても、現実の世界で必要なスキルである。

はっきり言って前段の破綻によるしわ寄せをプロジェクト実行部隊で吸収することは、極めて異常であるということが常識にならなければ、ブラック労働は無くならない。
o08usyu7231.hatenablog.com

3.プロジェクトマネージャー試験に望むこと

プロジェクトマネージャーの試験では限られたリソースでやりくりしながらシステムを完成させることが求められ、スケジュールの延期が許されないことや、稼動開始が必達であることが制約条件として加えられる。参考書によっては残業でまかなえる範囲は残業でカバーするなど、自分の努力で賄うべきであると書かれていたものもあった。外的要因に対して自分たちを犠牲にしているのはいかがなものかと思う。内的要因であったとしても、自分たちを犠牲にすることで、状況が更に悪化することもある。

プロジェクトマネージャーの試験では、もう少しプロジェクトメンバーの労務管理に関するものも含めた問題を出すべきではないかと思う。プロジェクト管理と労務管理はセットであり、プロジェクトの成果物を納期通りに完全させたとしても、プロジェクトメンバの犠牲的労働の上に成り立たせているようなプロジェクトマネージャは居てもらっては困るからである。今の時代ブラック労働の排除や働き方改革が叫ばれる中、このような視点が必要だ。試験で求められる解答と現実世界に求められるスキルは違う。プロジェクトマネージャー試験が現実世界にもう少し近づけば、労働環境の面でも進展があるだろう。

今のプロジェクトマネージャーの試験が目指すところでは、様々な制約の中でも成果物を完成させるプロジェクトを成功に導かなければならないところだけが強調され、この感覚でなんとかプロジェクトをやりくりしようとする。プロジェクト管理と「労務管理」「労働問題」とは一体で扱わなければならない。そして、プロジェクトメンバーにブラック労働を強いることがないようなプロジェクトマネージャーが増えるべきだ。

4.プロジェクトマネージャーは労務管理・労働問題・コンプライアンスについても学ばなければならない

「高品質」「短納期」と言うのは簡単だが、それを実現するためのプロジェクトマネジメントは非常に難しい。(テスト作業等を自動化すれば話は別であるが) 魔法のようなものはない。スコープを絞ることや、無理な要求を言ってくる要求元を断るのも現実的だろう。だがこのようなことがプロジェクトマネージャーの試験の問題の解答にはおそらくなり得ない。

プロジェクトマネージャー、発注元、発注先いずれにしても労務管理や労働問題を学び、コンプライアンスについて高い意識を持ち、特定の人や企業や部門に負担をかけすぎて犠牲にすることがないように、みんなでお互いのことを気にかけて尊重し、労りあっていかなければ、まともなプロジェクトにはならないことを覚えておこう。

資格、労働について、関連する記事のリンクを貼っておくので、こちらも一読いただきたい。
o08usyu7231.hatenablog.com