エンジニアと言えば、「長時間労働」とイメージする人もいるだろう。近年は、長時間労働が規制される一方、人手不足を理由に依然として長時間労働によって、健康面・生活面・キャリア面において被害を受けるケースがあり、大変深刻な問題となっている。エンジニア以外の職種においても然りである。
一方、エンジニアと言えば、常々技術を学んでいかなければならないし、扱う製品、システムが変わると、その仕様等把握するのが大変である。特に大規模システムになると一人のエンジニアが詳細まで覚えることのできないドキュメントやソースコードのボリュームに及ぶことが珍しくない。
短い期間で多くのスキルを身に付けようとすれば、負担がかかる。でも、エンジニアの成長にとっては重要だ。短い期間に多くの機能を盛り込んだシステムを開発しようとすれば、エンジニアに負担がかかり、結果として長時間労働という形で表面化する。でも、エンジニアにとっては多くの経験ができる。
この記事では「長時間労働」と「エンジニアの成長」に着目し、これまで私が感じてきたことを語りたいと思う。この記事を読んでいただいた方には、これからのキャリアを考えるうえで参考にしていただければ幸いである。
1.私自身「長時間労働」で「成長」したとは思ったことが無い
私は、若い時もある程度年齢を重ねてからもそうなのだが、長時間労働で成長したと思ったことはない。若い時になんとか長時間労働に耐えることが出来て、一部の上位者や同僚から、
「あの頃(の長時間労働)を乗り切ったからこそ、成長し、今があるのだ!」
などと言葉をかけられたものだが、私は全くそうは思わないのだ。
毎日終電まで作業する超絶ブラック、また別の開発現場では「長時間労働」+「遠距離通勤」で自由な時間はほぼなしといった状態で、ただ疲労が蓄積し、ミスも多くなり、効率が下がり、健康面のリスクを抱えるという何一つ良いことが無かった。
では、私が成長したのはどのような時か?
感覚的には数回体感したのだが、長時間労働で疲弊した後状況が落ち着き、もしくは別プロジェクトへ移り、余裕のある日程でじっくり腰を据えて、確実にシステム仕様・背景を理解し、技術を身に付けながら、目の前の業務に専念し、ストレスフリーで、良いコンディションで業務を進められているときである。結果的にインプットや学びが多く、成長に繋がるのである。
「長時間労働で疲弊した後状況が落ち着き」という点が直前の過酷な状況からの変化であるため、特に印象に残っているだけかもしれないが、もう少し広げて言うと、新しい業務、新しい技術を、しっかり時間を確保して取り組んでいるときである。
なので、長時間労働やキツイ状況ではなく、適切な環境であれば、私はもっと成長していた可能性が高く、非常に勿体ない思いをしているのだ。
旧態依然の人や企業による若手の教育方針によくある勘違いは、
- 「業務を多く与えれば成長する!」
- 「丸投げも本人の成長のため!」
- 「一旦、突き落とすくらいでないとダメ!」
といった内容である。昭和の感覚を令和にまで持ち込んでいるとしか思えない。極端な話、サボり癖のある若手等人によっては必要なことかもしれないが、私が見てきた限りではこのような人は皆無だ。恐怖や圧力で人を動かそうとすると、場合によってはパワハラの6類型の1つ「過大な要求」に該当するリスクもある。相手のパフォーマンスを下げることは何一つ良いことはない。
2.私の部下には「成長」してほしいが「長時間労働」をさせたくないという思いがある
若い頃に長時間労働等で苦労して、上司になった時、若手の育成方針に関して大きく以下の2パターンが考えられる。
- 「自分は若い頃苦労したのだから、若手にも同じように長時間頑張ってもらって苦労させて、成長させるべきだ!」
- 「自分は若い頃苦労したので、若手にはそのようなことがないように配慮した上で、じっくり確実に成長してもらおう!」
前章で述べた通り、旧態依然の人は前者を選ぶ可能性が高い。しかし、私は後者だ。長時間労働でまともに成長したと思ったことが無かったからだ。
教えるべきことは教え、情報提供すべきところは提供し、考えてもらうところは考えてもらいつつも、若手に無理のないよう労務管理はしっかり行う。若手の困りごとには寄り添い、解決のサポートを行う。ただ、突き放すだけではダメだ。「若手に考えさせる」「若手に任せる」などとと称して「若手に丸投げする」ことは、程度によっては上司側の怠慢を正当化する常套手段であることが多い。若手が困ってしまえば、当然上司側の責任だ。私はこのような若手側の立場を何度も経験したことがある。力関係や立場で人を動かすのではなく、しっかりと「信頼関係」を築いていかなければならない。「信頼関係」がなければ、ただの「主従関係」だ。
o08usyu7231.hatenablog.com
私が取り組んだことは、例えば、若手からは毎日報告を受ける。トラブルなどの予兆を早く見抜く。ネガティブな話ほど早めに上げるよう周知と、雰囲気作りを行う。夕方に朝礼を行う「夕礼」はその一例だ。
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若手の成長に繋がるような業務を若手に与え、一方で若手に負担をかけない狙いから、若手の成長に繋がらない作業を自分が引き取るといったことも行ったことがある。もしかすると周囲からは
「上司が作業を引き取る等考えられない。若手にやらせるべきだ!」
と思われていたかも知れない。場合によっては「若手から仕事を奪ってしまう」ことになりかねない。しかし、ここは労務管理を意識した業務の進め方だ。若手の長時間労働に頼ってプロジェクトを進めるやり方は、上司である私自身のマネジメント能力が低いということにもなるので、若手に無理はさせたくないのだ。
結果、成長した若手もいた。上位者から見て期待したほどの成長が見られなかった若手もいた。一方的に教えることが全てではない。私の姿を見て良い影響を受けてくれた若手、「今の自分があるのは〇〇さん(私)のおかげです」とコメントしてくれた若手、若手を育てたのは一概に長時間労働のおかげではない。
3.目指すキャリアや個人の価値観によって「長時間労働」への考え方が変わる
「長時間労働」が「エンジニアの成長」に繋がるかどうかは、人それぞれであり、各個人の価値観にも依存する。また、同じ個人であっても、状況の変化、ライフステージの変化、家庭の事情等によって、価値観が変化することもある。
- ハードワークでも(法律や協定の範囲内の)長時間労働でも良いから、稼ぎたい、経験を積みたい。
- 長時間労働は絶対に×。ワークライフ・バランスを確保したい。
- 短時間で高い成果を出したい。
- メインの業務以外にも、自己啓発や副業にも取り組みたい。
私自身、短期間の「長時間労働」、恒常的な「(やや)長時間労働」、残業が少ない健全な状態のいずれも経験してきた。私はこのブログで「長時間労働」を否定的に語っているわりには、少し矛盾するのだが一概に悪いとは考えていない。そもそも、法律に触れることや健康面等に影響が出る「長時間労働」はNGだが、納期に追われない「長時間労働」なら、体力的には少々きつくても、心理的には楽なので、そこまで問題視していない。例えば、(企業にとっては推奨されないケースもあるが)システム開発プロジェクトにおける作業の進捗が順調であっても、先々発生するかもしれないトラブルに備えたり、対象のシステムや必要な技術をより深く理解したい狙いで残業して、心理的に楽にすることがある。他にも、業務改善(システム開発で使用するツール整備)等、新たな技術や言語の習得も含めて行うことは、将来楽になるという意味で良い面がある。
いずれにしても、納期に追われて心理的圧迫の中で行うのではなく、作業に没頭して気づいたら「長時間労働」だったとなれば、これは「成長」できるパターンなのではないかと思う。好きなことをやっていると夢中になり、苦痛でなくなるということは誰にでもあるはずだ。こうなると「長時間労働」という概念がなくなることさえある。特に、直接受注しているシステム開発プロジェクトの作業ではなく、業務改善で新たな技術やツール、言語に触れて、残業代を稼ぎながら自身のスキルアップに繋げるのは、個人的に有効なのではないかと思うし、実際私自身もそのようなことをやったことがある。
また、「長時間労働」ではないが、業務以外にも業務時間外に資格取得のための勉強に励む、転職事情を知る、副業やフリーランスに関する知識をつける、といった自己啓発も有効だ。それぞれの目指すキャリアによって、どのような行動を取るか、人それぞれで多様であって良いと思う。その1つに業務改善に繋がる内容や現業務の内容を深く知るなど、成長出来て心理的に負荷のかからない「長時間労働」であれば、さほど問題ないのではないかと思う。
ただ、このような成長に繋がる「長時間労働」を上司が部下に強要することはNGだ。
などと、上位者からの圧力で動かすことも、同僚同士が集団で同調圧力によって動かすこともご法度だ。
また、いかなる理由でも残業禁止としているホワイト企業もあるので、そのような企業では、改善業務を含めた業務は業務時間内に、自己啓発は業務時間外にするようより一層のメリハリをつける必要がある。
4.絶対にあってはならない「長時間労働」はそれしかソリューションがないという「前段の粗悪さ」!
最後に一番あってはいけないのが、「長時間労働」でなければ業務が回らないという状況、およびこれを「厳しさ」と称して従業員に使命感を植え付けるマインドの刷り込みである。ブラック企業に見られる「洗脳」の一種だ。業務が回らない、作業ボリュームと期間が見合わない、顧客から無理な要求を受けたなどという「前段の粗悪さ」に対して、単純に「長時間労働」で賄うことは、「猿でもできる愚策」と某ホワイトIT企業社長が語っている。はっきり言って「厳しさ」ではなく、「前段の粗悪さ」によってしわ寄せを受けているという「被害」「迷惑」である。
この「長時間労働」しかソリューションがないという「前段の粗悪さ」を、「エンジニアの成長」と称して、
「〇〇が毎日22時まで頑張っているのに、お前はなぜ22時まで頑張らないのだ!」
などと、理不尽を押し付けて疲弊させるのはもってのほかである。
o08usyu7231.hatenablog.com
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私自身「長時間労働」で「成長」したとは思ったことが無いのだが、このブログを書いて読者の方々に「粗悪さ」をお伝えすることができるのは「長時間労働」を経験したからだ。同じスキルの人間でも環境によってアウトプットが全く異なることを、私は身をもって体験している。私以外にも同様の経験されたエンジニアもおられるはずだ。「長時間労働」や、それとセットで発生しやすい「パワハラ」は、優秀な人材を台無しにする。優秀な人材なら「長時間労働」や「パワハラ」と無縁であるかというとそうではない。私がエンジニアとして「成長」し、これまで大手メーカーを中心に実績を出してきたから、このことは自信を持って言える。
企業や管理職は、「長時間労働」=「エンジニアの成長」という概念を撤廃すべきである。「長時間労働」によって「成長」に至ったのではない。「長時間労働」に従順に対応してくれる社員は「成長」しているのではなく、「破綻した『前段』であっても『長時間労働』でカバーしてくれる都合の良い社員」であるだけなのだ。各々のエンジニアの価値観を理解し、「長時間労働」以外で「エンジニアの成長」が実現できる手段を検討し、企業にとって最低限必要な「労務管理」をしっかりと行ってほしい。同時に、労働環境の改善は優秀な人材が集まるための必須事項ということを理解していただきたい。逆にこれが出来ていなければ、優秀な人材が流出し脱落するしかない。
一方、「長時間労働」に巻き込まれている労働者は、それが自分の「成長」に繋がっているか確かめてほしい。「成長」に繋がらない、ただボリュームの多い作業を永遠とこなすだけ、わけのわからないシステムの解析や嫌気が差すトラブル原因究明、顧客や上層部に振り回されて体力だけ消耗して毎日が疲労感でいっぱいであれば、それは「エンジニアの成長」の過程ではなく、ただ企業に都合よく使われているだけの可能性が高い。「厳しさ」に耐えるのではなく、自分自身が壊れる前に「粗悪さ」を正しく見抜くべきである。その状況に至る「前段」を正しくとらえ、今後改善する見込みなのか否かの見極めが必要だ。そして自分の今後のキャリアを描き、複数の転職サイトに登録してエージェントから色々情報を得れば、本当に今の会社に居続けてあげるべきか明確になるはずだ。
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